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第160話

『じゃあ、それ飲みながら待っててね』と笑顔を残し、倫が再び奥へと引っ込んでいく。 「美味くねぇな」 「……」 「……お前も飲んでみろ」 そう言って、僕の前にあるグラスを顎で指す。 ……不味いような事を言っていたけれど。菊地のグラスを横目で見れば、一気に飲んだのだろう。半分以上も減っていた。 促されるまま目の前のグラスに手を伸ばし、紫蘇ドリンクをひと口だけ飲んでみる。 爽やかな口当たりでサッパリとしながら、ほんのりと舌に残る甘み。飲み込んだ後から、独特の香りが鼻を突き抜けるけれど……思ったほど嫌な感じはしない。 スッ、と身体に染み入っていくのを感じる。 ……何だか、不思議。 「……ケツ、痛くねぇか?」 「え……」 不意に想定外の言葉を掛けられ、戸惑いながら菊地を見上げる。 「座ってんのが辛かったら、ちゃんと言えよ」 「………はい」 最初の扱いとのギャップに、戸惑いを隠せない。 どうして急に、僕なんかに優しく接したりするんだろう…… それがかえって恐怖心を煽り、グラスを持つ指が小さく震える。 「……さっきの続きだけどな」 店員の消えた方に顔を向けていた菊地が、声のトーンを僅かに落としながらチラッと僕に視線を落とす。 「今はあんな感じだが………院に入ってすぐ、全員からリンチ食らったんだよ。 俺らがいた頃は、最悪で。女に飢えて盛ってた奴らばっかだったからな」 彼らの性処理──それが倫に与えられた役割となり、逃げ場のない牢獄の中で毎晩、何人もの男の相手を同時にさせられたという。 「そんなんが続いて、昼の作業中に突然ぶっ倒れちまって。 ……飯もろくに食ってなかったみてぇだし、睡眠もろくに取れて無かったんだろ。そのまま病院送りになった」 「……」 ゾクッと身体が震える。 太一らにされたような輪姦(行為)を……毎晩……欠かさず受けていた、なんて……

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