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第165話

早朝にも関わらず、ウザいくらいの熱血口調。加えて優等生ぶった、爽やかな声色。 奴の声を聞いただけなのに、寝起きからドッと疲れた気がする。 「……」 「開けるけどいいか?……入るぞ!」 そう言われてやっと自分の身形に気付いた。 ケットの下は、全裸。 交接行為はないものの…… フェラチオを二回程し、全身をくまなく愛撫され、素股を何度か。 そのまま眠ってしまったようで、ティッシュで軽く拭き取られてはいるものの……乾いた精液が身体中にこびり付いている。 ガチャッ…… 開かれたドアから現れる、五十嵐のシルエット。 その背後からは、眩い程の、朝日…… ゆっくりと横向きのまま身を起こせば、ケットがスルリと素肌を滑り落ち、腰の辺りで留まる。 腰までの上半身が剥き出しになると、目が合った五十嵐の視線が徐に下がった。 「……」 「……ぉわっ、と……!」 絵に描いた様なコミカルな動き。驚いた表情のまま両手を軽く上げ、二歩ほど後退る。 そして入っていいものか、躊躇しながらチラリと僕を見た。 「……なに?」 「な、何って……、か……隠せよ。 ……そういう、生々しいの……」 生々しい……? 胸の辺りに指を添え、ハイジが付けた痕をなぞる。 もうだいぶ薄くなった、キスマーク。 「……」 ああ、これの事……? でも何処が生々しいんだろう。 学校でも特に隠した事ないし、そういう意味で騒がれた事もない。 ……確かここで会った日も、これ見なかったっけ……? それに上半身裸でも、男なんだからどうって事、ないと思うけど…… 「……いいか、入るぞ。……か、隠しとけよ……!」 「うん……」 ケットを引っ張り上げて、体に包む。 中に入った五十嵐は、僕に背を向けサイドテーブルの上を片付け始めた。 大きめのビニール袋に次々と残骸を放り込み、近くにあったウエットティッシュでテーブルを拭き取る。 その慣れた手つきをぼんやりと眺めていると、五十嵐の動きが急に止まった。 「……なぁ、工藤。 お前、どっか行きたい所とかある? ゲーセンとか、カラオケとか、……何でもいい。どっかないか?」 拭き終わって汚れたウエットティッシュを、言い終わると同時にゴミ袋に放り込む。それから小さなゴミ箱を拾いあげ、精液の匂いがするだろうティッシュの山も片付けた。 「菊池さんに頼まれてさ。……工藤を外に連れ出して、気晴らししてやってくれって」 「……」 どういう、風の吹き回しなんだろう…… 五十嵐と外出するよう、取り計らうなんて。 もし僕がそのまま逃げたら……とか、考えたりしなかったんだろうか……

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