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第166話
「……といっても、昼飯食ったら帰んなきゃなんだけどさ。それまでの間なら、どっか希望する所連れてけるから。遠慮しないで言えよ」
向けられる、無駄に爽やかな笑顔。
五十嵐は、菊池に弱みを握られてるから逃げられない……って言ってた。
身辺調査もされてるって。
僕の場合は、どうなんだろう……
どこまで調べ上げられてるんだろう。
……もしかしてその上で、逃げないと解ってて外出させるんだろうか……
「ていうか。お前、昨日も……されたんだよな。………その、歩けるか?」
気遣う様で解った風な口を利かれ、一気に不快な気分になる。声に、妙な馴れ馴れしさがあるのも手伝って。
「………うん」
「あ、そういえばさ、服。……お前、服とかいつもどうしてんの……?」
ゴミ袋に封をした五十嵐が、部屋の中をキョロキョロと見回す。
「ていうか、替えの服とかあるのか?
……ちゃんと揃ってんのかよ」
「……」
「まさか……ここに来た時のしか持ってないとか、言うなよ……」
「……そうだけど」
「えっ、マジかよ!」
「……」
特に昼間は出掛ける事もないし。
殆ど一日中ベッドで横になってるだけだから……タイミング見て手洗いして、バスルームに干してる。
アパートで独り暮らししていた時も、服は殆ど持っていなかったし。別段不便とは思わなかったけど……
でも、あとワンセットくらいあればいいな、とは確かに思った。
「……んじゃ決まり。服、買いに行こうぜ」
白のTシャツに、デニムのショートパンツ。黒のパーカーもあるけど、もう重ねて着るには少し暑いかな。
まだ余り食事が摂れてなくて、情けないくらいに細い体。
ショートパンツのウエスト部はもう緩くて。浮き出た腰骨で何とか引っ掛けてる感じ。
そんなに大きくない筈なのに、何だかシャツまでぶかぶかしてる。
ベッド端に座り靴下を履いていると、窓の傍に立って外を眺めていた五十嵐が、突然声を上げた。
「……あ、来たぞ!」
何度か軽快にエンジンを吹かす音。同時に聞こえるのは、ウーハーの効いたダンスミュージック。
玄関に駆け寄った五十嵐が勢いよくドアを開ける。
その後に続いて外を覗けば、停まっている車に見覚えがあった。
──電動スライドドアの、ワゴン車。
瞬間、夜景スポットの展望台で、モルがその車に連れ込まれる光景を思い出した。
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