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第167話

想像通りの車内だった。 窓ガラスにフィルムが貼られている辺りで、何となく嫌な感じはしていた。 三列シートの一番後ろの席に積まれた、何が入ってるのか解らない数個の段ボール。 その上には、乱雑に置かれた幾つもの服。よれた雑誌。コンビニ袋。 そのコンビニ袋は、縛った口から割り箸が半分程出たものばかり。 車の芳香剤と、香水と、煙草と、……他に何かが混ざった様な、異様な臭い。 窓を開けて新鮮な空気を取り込みたいけど、言い出せない異様な雰囲気。 「……あー、さくらちゃんてさぁ……」 運転している男が、何か思い出した様に口を開く。 黒の短髪。片耳ピアス。和服柄の襟付きシャツ。首元のタトゥー。左手にゴールドの腕時計。そして、咥え煙草。 何処からどう見ても、柄が悪い。 「『姫』って呼ばれてんだってね」 信号に引っ掛かった訳でもないのに、山道を下りながら、助手席の後ろに座る僕の方をチラッと見る。 「あー、それ、(ライ)の弟が言ってたヤツだろ?」 可笑しそうに笑いながら言うのは、僕の隣に座る男。 耳たぶ辺りまでかかる金髪。そこから覗く数個の耳ピアス。黒のキャップ。グレーのフードが付いた、赤と黒のチェックシャツ。細縁の、丸めがねサングラス。 「姫は姫でも、『囚われの姫』ってカンジだよな……」 片側の口角をクッと持ち上げ、僕に顔を近付けまじまじと見てくる。 「おい、(しゅう)。さくらちゃんは、菊地さんの大事なお姫様なんだぜ。……迂闊に手ぇ出すんじゃねーぞ」 「わぁーってるって。オレ、そこまでバカじゃねーから!」 運転している男に釘を刺されながらも、隣の男……愁は、一定の距離を保ったまま黒目を素早く上下させ、僕を舐めるように見た。 「……あー、たまんねぇ…… セーラー服着させて、スカートの裾持ち上げさせて……オレの上に跨がって腰振ってくれたら、……最高に絶景だよなぁ……」 前の二人を警戒しつつ……僕の首元に鼻先を寄せ、クンと嗅ぎながら吐息混じりに囁いてくる。 と同時に、ふわっとかかる生暖かな息。 ……乗るんじゃなかった。 余りに柄が悪くて、必然的に五十嵐に頼るしかない状況になっている事も、最悪…… 「そういえば、真木先輩。……八雲先輩と蕾先輩は……? 今日は珍しくいないんですね」 助手席にいる五十嵐が、運転手の男……真木に話し掛ける。 「……新人教育だよ」 「え、……あっ、あの新しく入った……類って人のですか?」 「そう。アイツな、蕾の弟のくせして、セックスを異常に毛嫌いすんだよ。 だからその調教。……っつーより、洗礼か。 ──昨日の夜、引っ掛けた女をホテルに連れ込んで、類に夜通しヤらせたんだとよ」 ……え……

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