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第172話

* 無事に繁華街に辿り着き、五十嵐と共に降ろされる。 集合時間は、今から二時間後。合流した後何処かで軽く昼食を摂り、アジトであるラブホテルに帰る予定らしい。 「……ここは?」 スタイリッシュなガラス張りの駅に隣接しているのは、巨大な敷地を誇るショッピングモール。それを見上げる僕の隣で、五十嵐がハハッと乾いた声で笑う。 「驚いた? 駅前にでかい商業施設って、田舎の象徴だよね」 「……」 「○県T市って、解る?」 「……え」 それは、前に住んでた場所から県境を二度越えた場所──確かに移動の際、下道を走ったり休憩を何度も挟んでいたのもあったけど。ハイジが借りてたウィークリーマンションを出てから菊地のいるアジトに辿り着くまで、相当時間が掛かっていた。 「俺さ、ここまで新幹線で通ってんだけど……こっからはバスか自転車使って移動すんの。でもさ、山に向かうバスなんて一時間に一本あるかないかだし、あの山道を自転車漕ぐのって結構キツいんだよね。 でも……そんな俺を真木さんが気に掛けてくれて、時々拾いに来てくれるんだよ。帰りもさ、足が無いからって心配してくれて──本当、いい人だよ真木さん」 そう言いながら、嬉しそうに笑顔を浮かべる。 「……って、俺の話はいいか」 「……」 「それより服! 服、見に行こうぜ!」 押し黙っていた僕に笑みを向け、五十嵐が歩き出す。 駅から流れてきた人々が、ショッピングモールへと向かっていく。その人の多さに、ただただ驚かされる。 モール内は、案内を見ないと迷子になりそうなほど広く、複雑な構造をしていた。 同じような専門店が道の両端に立ち並び、何処までも続くその数の多さに圧倒される。 「こっち」 「……」 突然、五十嵐に左手を取られる。 引っ込めようとして、止める。人の多さもあったし。何より……その行為に如何わしい気持ちなど、微塵も無いだろうから。 それにしても──こうしてぶらぶらするのもだけど、誰かと一緒にウインドウショッピングなんて久し振りな気がする。 確か、ハルオのアパートに居候してた時以来だ。 あの頃は、見えない鎖で精神(こころ)まで縛られていたから……苦痛でしかなかったけど。 今はそう思わない。 五十嵐は、最初から僕に対してそういった下心が備わってないから…… 「……あ、これお前に似合うんじゃないか?」 メンズブランド店の前に立ち止まり、五十嵐が入り口にあるマネキンを指差す。 「ちょっと入ってみようぜ!」 無駄に明るい声を上げ、僕の手を半ば強引に引っ張った。 それから五十嵐は、幾つか服を見繕い、僕に当ててみたり試着を勧めたり…… ……何だろう。 同じような事をしてるのに、ハルオの時とは全然違う。 友達……って、こんな感覚なのかな…… 変な煩わしさは感じられない。 ……いや、妙な暑苦しさとか、変に爽やかな所とか、無遠慮に土足で踏み込んでくる所とか。そういう、コイツの苦手な所はあるけど…… 嫌じゃない、かも。 五十嵐は、色欲を含んだ眼や軽蔑したような眼で僕を見たりしない。どうやって陥れてやろうとか、利用してやろう等と企んでる様子も見られない。 ただ菊地の命令で動いてるだけで、敵意は一切感じられない。 そういう意味では、楽……というか…… 「……」 何か、変だ…… 調子狂う。 ……少しだけど、楽しいって思い始めてる。 まだコイツに、心を許した訳じゃないのに………

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