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第170話
無事に繁華街に辿り着き、五十嵐と共に降ろされる。
集合時間は、今から二時間後。
合流した後何処かで軽く昼食をとり、アジトであるラブホテルに帰る予定らしい。
「……ここは?」
スタイリッシュなガラス張りの駅に隣接しているのは、巨大な敷地を誇るショッピングモール。
それを見上げる僕の隣で、五十嵐がはは、と乾いた声で笑う。
「驚いた?
駅前にでかいモールって、田舎の象徴だよね」
「………」
「えーっと。俺らが住んでる所から……五、六十キロ離れた所、かな。
車だと、だいたい一時間ぐらい」
「……」
そんな、離れた場所に……
「○県N市って、解る?」
「……え」
「俺さ、ここまで電車通いしてるんだけど。時々真木さんに声掛けられて、車で送って貰ったりするんだよ。
正直、田舎の電車移動って疲れるんだよね。
一時間に二~三本の時あるから、乗り換え含めて結構待つし。たまに、人身事故で停まったりもするし……」
言いながら五十嵐が後頭部に手をやる。
「って、俺の話はいいか」
「……」
「……服、見に行こうぜ」
押し黙った僕に笑みを浮かべてみせ、五十嵐が歩き出した。
駅から出た人々が、ショッピングモールへと流れていく。休日なのかと思う程の人の多さに驚いた。
モール内は、案内を見ないと迷子になりそうな広さと複雑な構造。
同じような専門店が両端に立ち並び、何処までも続くその数の多さに圧倒される。
「こっち」
「……」
突然、五十嵐に左手を取られる。
引っ込めようと思ったけど、止めた。
人の多さもあったんだろうし、その行為に厭らしい気持ちなど微塵も無いのだろうから。
それにしても……
こうしてぶらぶらするのもだけど、誰かと一緒にウインドウショッピングなんて……凄く久し振りな気がする。
確か、ハルオの所に居候してた時以来。
あの時は、見えない鎖で心まで縛られていたから……苦痛でしかなかったけど……
今はそう思わない。
五十嵐は、最初から僕に対してそういった下心が備わってないから……
「……あ、これお前に似合うんじゃないか?」
メンズブランド店の前に立ち止まり、五十嵐が入り口にあるマネキンを指差す。
「ちょっと見てみようぜ」
無駄に明るい声を上げ、僕の手を半ば強引に引っ張った。
五十嵐が幾つか服を見繕い、僕に当ててみたり、試着を勧めたり……
何だろう……
同じような事をしてるのに、ハルオの時とは違う。
……友達……って、こんな感覚なのかな……
変な煩わしさとかなくて。
いや、妙な暑苦しさとか、変に爽やかな所とか、無遠慮に土足で踏み込んでくる所とか──そういう、コイツの苦手な所はあるけど……
嫌じゃない。
五十嵐は、色欲の目や軽蔑した目で見てこないし、僕を陥れようとか利用してやろうとか企んでる様子もない。
ただ、菊地の命令で動いてるだけで、敵意は感じない。
そういう意味では、楽……というか……
「……」
何か、変だ……
調子狂う。
……楽しいって、思い始めてる。
まだコイツに、心を許した訳じゃないのに………
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