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第171話
結局、フード付きプリントTシャツの半袖と長袖を一枚ずつ。
ジーンズは幾つか試着したものの、五十嵐に似合わないと言われ……結局サイズ違いのショートパンツのみに。
そして、何のつもりか……強引に買わされた、黒のニーハイソックス。
「……腹減ったな」
ゴールドの腕時計をした手が、テーブル脇にあるメニュー表を取った。
二時間弱の買い物を終え、真木らと合流した後──駅周辺やモール内の飲食店は混雑するからと避け、車を走らせた先にあったファミレスに入った所だった。
ランチタイムにも関わらず、空いたテーブルがちらほら目につく。
それでも客の声や店内に流れる音楽、食器のぶつかる音などの雑音が、耳障りな程飛び交っている。
「で。どうだったんだ、五十嵐。姫との買い物デートは」
「……ちょっと、からかわないで下さいよ」
真木がメニュー表を開きながら、悪戯っぽい口調で五十嵐をからかう。
「照れんなよ。菊地さん公認のデートだろ?」
「……ち、違いますって!」
真木の隣に座る愁が、後に続けとばかりに五十嵐をからかった。
「……あー、マジ腹減った。ガッツリしたモン食いてーわ」
キャップの上にフードを被せたままの愁が、メニュー表をパラパラと捲る。
「……ああ、二人とも遠慮すんなよ。飯代ならコイツが払うから」
「……ハァ?!、ざけんな真木」
真木が五十嵐と僕を交互に見ながら、立てた親指を愁に向ければ──言葉では反発しつつも、しょうがねぇなとばかりに愁が軽く溜め息をつく。
店員を呼び、それぞれが好きなものを注文する。そして店員が去った後、メニュー表を纏めた真木が、正面に座る僕の顔をまじまじと見つめた。
「にしても。……あの菊地さんが、特定のオンナを作るなんてな」
「……だよな。あの性欲モンスターが、姫一人に満足できる訳ないっしょ」
真木の独りごちた言葉に反応し、愁がケラケラと下品に笑いながら、臆す事なく軽口を叩く。
その様子に軽い溜め息をついた真木は、愁を咎める事無く再び口を開いた。
「なぁ、さくらちゃん。変な事聞くけどさ。
──菊地さんのオンナになったのは、合意の上?」
「……」
え……
一瞬、瞳が小さく揺れた。
確かに。改めて聞かれれば、ちゃんと返事をしていない事に気付かされる。
……でも、拒絶していないから、合意って事になるんだろうけど。
「………違う、って事だね」
「……」
答えずにいれば、真木が確信した様子で口角を持ち上げた。
そして後ろを振り返り、警戒した様子で店内を見回した後、両腕をテーブルについて前屈みの体勢になる。
「俺らは、君を助けたいと思ってる」
真木の真剣な瞳が、僕を捕らえて離さない。
「五十嵐と類から、大体の話は聞いてる。俺なりに、君の事情は解ってるつもりだから、安心してよ」
「……」
──助けたい。
何でこの人。
いきなりそんな事……言うんだ……
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