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第174話

真木が柔和な笑顔をしてみせる。が、吉岡のような人懐っこさはなく、寧ろ不気味な印象を受けた。 この人達にとって、僕を助けるメリットなんて、ない筈── 警戒したまま真木をじっと見据えれば、ふと瞳を緩めた真木が、二度目となる軽い溜め息をつく。 「参ったね」 「……」 「お察しの通りだよ。別に俺らは、ピーチ姫を救うマリオじゃねぇ」 真木の口元が歪み、瞳に冷めた邪気が孕む。 こんな厳つい(なり)をしながら、今までそう感じなかった方が不自然だったと思い知る。 「……実は俺らもな、そろそろvaɪpər(この組織)から抜けたいと思ってんだよ。 掛け子にしろ受け子にしろ、送迎や見張りにしろ……結局、末端クラスの俺らは、単なる捨て駒に過ぎねぇからな」 本音を吐露する真木。 据わっていた眼が尖り、迫力が増す。首元にある刺青が、更にそれを押し上げた。 「その単なる捨て駒の俺らが、ヘマしたり逃走しようもんなら、菊地さんに始末されんのがオチだ。 そこで──」 腰を少し浮かせ右手でポケットを弄った後、手にしたものをテーブルに置き、スッと滑らせながら僕の方へとそれを寄越す。 「この呪縛から解放される為に、さくらちゃんに協力して欲しいんだよ」 小さな透明のビニール袋。 その中に見えるのは、白い粉。 「菊地さんが口にする物に、少量ずつこれを混ぜて欲しい」 「………、!」 困惑する僕を、真木の尖った眼が捕らえて離さない。 鋭く凶器的な空気。逃れられない眼力。 もし、これを拒否したら─── 「……もしかして、何か勘違いしてる? 菊地さんのオンナだからって、自分だけは特別だとかさ……」 口元を緩めた後、随分と冷めた笑いを漏らし、背筋を伸ばした真木が肩で大きく息を吐いた。 「さくらちゃんも同じだぜ。 どんな言葉でオンナにされたかは知らねぇけど。菊地さんにとっちゃあ、単なる性欲処理の一人。……欲望を満たす為の、肉便器に過ぎねぇ」 「……」 侮辱的な言葉に、カッとなって嫌悪感が増す。 『違う』──そう言い切って突っぱねられる程の自信は、無かった。 確かに僕は、菊地に抱かれる為にここに来たんだ。毎晩のフェラと素股は、もうすっかり日課となっている。 「……肉便器」 彼の中でヒットしたのか。プッと吹き出した愁が、ニヤニヤと厭らしく僕を見ながらボソッと呟く。 ……でも。 それならわざわざ倫の店まで僕を連れてって、口説いたりするだろうか。 僕に優しくなんか、するだろうか…… 「……」 「そのうちシャブ漬けにされて、廃人になった所で虫けらのように捨てられんのがオチだ」 そう言って粉の入った小さな袋の端を摑み、低い位置で宙に浮かせる。 「だったら。──その前に、こっちからやってやろうじゃないか」

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