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第172話
真木が柔和な笑顔をしてみせる。
が、吉岡のような人懐っこさはなく、寧ろ不気味な印象を受けた。
この人達にとって、僕を助けるメリットなんて、ない筈──
警戒したまま真木をじっと見据えれば、ふと瞳を緩めた真木が、二度目となる軽い溜め息をつく。
「参ったね」
「……」
「……お察しの通りだよ。別に俺らはピーチ姫を救うマリオじゃねぇ」
真木の口元が歪み、瞳に冷めた邪気が孕む。
こんな厳つい形 をしながら、今までそう感じなかった方が不自然だったと思い知る。
「……実は俺らもな、そろそろ棲寝威苦 から抜けたいと思ってんだよ。
掛け子にしろ受け子にしろ、送迎や見張りにしろ。末端クラスの俺らは、単なる捨て駒にしか過ぎねぇからな」
本音を吐露する真木。
据わった瞳が尖り迫力が増す。
首元にある刺青が、更にそれを押し上げた。
「その単なる捨て駒の俺らが、ヘマしたり逃走しようもんなら、菊地さんに始末されんのがオチだ。
──そこで……」
腰を少し浮かせ右手でポケットを弄った後、手にしたものをテーブルに置き、スッと滑らせて僕の方へと寄越す。
「この呪縛から解放する為に、さくらちゃんには協力して欲しいんだよ」
小さな透明のビニール袋。
その中に見えるのは、白い粉。
「菊地さんが口にする物に、少量ずつこれを混ぜて欲しい」
「………、…」
困惑する僕を、真木の瞳が捕らえて離さない。
強い意思。逃れられない眼力。
もし、これを拒否したら───
「……もしかして、何か勘違いしてる?
菊地さんのオンナだからって、自分だけは特別だとかさ」
随分と冷めた笑いを漏らし、背筋を伸ばした真木が肩で大きく息を吐いた。
「さくらちゃんも同じだぜ。
どんな言葉でオンナにされたかは知らねぇけど。菊地さんにとっちゃあ、単なる性欲処理の一人。……欲望を満たす為の、肉便器に過ぎねぇ」
「……」
侮辱的な言葉に、カッとなり嫌悪感が増す。
『違う』──そう言い切って突っぱねられる程の自信は、無かった。
確かに僕は、菊地に抱かれる為にここに来た。毎晩のフェラと素股は、すっかり日課となっている。
「……肉便器」
彼の中でヒットしたのか。愁がニヤニヤと厭らしく僕を見ながら、ボソッと呟いた。
……でも、それならわざわざ倫の店に連れて行って、口説いたりするだろうか。
僕に優しくなんか、するだろうか。
「……」
「そのうちシャブ漬けにされて、廃人になった所でそこら辺に捨てられんのがオチだ」
粉の入った小さな袋の端を摑み、少しだけ浮かす。
「だったら。
その前に、こっちからやってやろうじゃないか」
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