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第175話
──やるって……
殺すって、事……だよね……
そんな……
幾ら何でも……そこまでするなんて……
その袋を受け取るよう、無情にも僕の方へと突き付けられる。
「……」
この中身が何なのか、知らない。
だけど……『少しずつ混ぜる』と言っていたのだから、即効性がある訳じゃなさそうだ。
「証拠なら、残さねぇから安心しな。菊地さんがくたばった所で、俺らが上手く処理してやるから。
──自殺に見せかけて、な」
またも真木が、受け取るよう僕に突きつけるジェスチャーを繰り返す。
「……」
これを見せられた時点で、僕に拒否権は無いに等しい。
だけど、もし受け取ってしまったら……確実に逃げ道を失ってしまう……
「菊地さんの所に来た理由は、ハイジと類を助ける為だったよな?
……だったら二人の為にもさ、菊地さんの配下から救い出してやろうよ」
僕が無反応を貫くせいか、真木が切り口を変えてくる。
「……なぁ、さくらちゃん。ここいらで腹括って、みんな揃って自由の身になろうぜ」
「……」
その白い粉の入った袋をぼんやりと見つめたまま……僕は受け取るべきかどうか、考えを巡らせていた。
「……ちょ、ちょっと待って……下さい……!」
緊迫した空気を切り裂く声──視線を其方に向ければ、堅い表情をした五十嵐だった。
忙しなく黒目を左右に動かし、慌てた様子で真木と愁を交互に見やる。
「もし、菊地さんにバレたら……そしたら工藤だけが、……」
「──最初に言い出したのは、五十嵐 だろ?」
五十嵐の言葉に被せ、冷静な真木が低い声で言い放つ。
「……このお姫様を助けたいってよ」
「それは……そうですけど」
……五十嵐が……?
この人達に、助けを求めたって事……?
『……なぁ……俺と、逃げないか?』
あの時──あんな事を言ったのは、気まぐれとかじゃ無くて……
……本気で……僕を……
「だったら、お前がサポートすりゃあいいじゃん」
今まで高みの見物をしていた愁が口を挟む。
背もたれに仰け反って腕を組み、片側の口端をクッと上げながら。
「掛け子ん中じゃあ、菊地さんに随分可愛がられてんだろ?」
「………」
「なら……決まりだな」
言葉に詰まる五十嵐。
愁に続いて真木が畳み掛ければ、五十嵐から僕に向けられる──二人の視線。
「………ごめん。工藤」
俯き加減で此方に視線を送った五十嵐が、僕に謝る。ポソリ、と申し訳無さそうに。
そうされてしまったら……
流石に、受け取らない訳にはいかない──
「……」
突き付けられた小袋に、そっと手を伸ばす。
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