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第173話

──やるって…… 殺すって、事……だよね…… そんな…… 幾ら何でも……そこまでするなんて…… その袋を受け取るよう、無情にも僕の方へと突き付けられる。 「……」 この中身が何なのかは、知らない。 だけど、少しずつ混ぜる……と言っていたのだから、即効性がある訳じゃなさそうだ。 「証拠なら、残さねぇから安心しな。 菊地さんがくたばった所で、俺らが上手く処理してやるから。 ──自殺に見せかけて、な」 またも真木が、受け取るよう僕に突きつけるジェスチャーを繰り返す。 「……」 これを見せられた時点で、僕に拒否権は無いに等しい。 だけど、もし受け取ってしまったら……確実に逃げ道が無くなってしまう…… 「菊地さんの所に来た理由は、ハイジと類を助ける為だったよな? ……だったら二人の為にもさ、菊地さんの配下から救い出してやろうよ」 僕が無反応を貫くせいか、真木が切り口を変えてくる。 「……なぁ、さくらちゃん。ここらで腹括って、みんなで自由の身になろうぜ」 「……」 その白い粉の入った袋を、ぼんやりと見つめたまま……僕は受け取るべきかどうかの考えを巡らせていた。 「……ちょ、ちょっと待って……下さい……!」 緊迫した空気を切り裂く声── 視線を其方に向ければ、堅い表情をした五十嵐だった。 忙しなく黒目を左右に動かし、慌てた様子で真木と愁を交互に見やる。 「もし、菊地さんにバレたら……そしたら工藤だけが、……」 「───最初に言い出したのは、五十嵐だろ?」 五十嵐の言葉に被せ、冷静な真木が低い声で言い放つ。 「……このお姫様を助けたいってよ」 「それは……そうですけど」 ……五十嵐が……? この人達に、助けを求めたって事……? ″……なぁ……俺と、逃げないか?″ あの時──あんな事を言ったのは、気まぐれとかじゃ無くて…… ……本気で……僕を…… 「だったら、お前がサポートすりゃあいいじゃん」 今まで高みの見物をしていた愁が、口を挟む。 背もたれに仰け反って腕を組み、片側の口端をクッと上げる。 「掛け子ん中じゃあ菊地さんに、随分可愛がられてんだろ……?」 「………」 「なら……決まりだな」 言葉に詰まる五十嵐。 真木がだめ押しに畳み掛ければ、五十嵐から僕に向けられる──二人の視線。 「………ごめん。工藤」 ポソリ、と申し訳無さそうに。俯き加減で此方を見た五十嵐が、僕に謝る。 そうされてしまったら…… 流石に、受け取らない訳にはいかない── 「……」 突き付けられた小袋に、そっと手を伸ばす。

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