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第174話
「……それなら」
伸ばした手を、寸前で止める。
「僕からも、お願いが……」
「……なんだ」
──ドクン、ドクン……
真木の瞳が、中々受け取らない僕に苛ついた色を見せる。
僕を支配しようとする双眸。
体に緊張が走り、それに怯みそうになるのを何とか飲み込んだ。
「先にモルを、解放して」
モルは、ただ巻き込まれただけ。
あの小さな体で、猟奇的な龍成から僕を守ろうとしてくれた。
″……俺にとって姫は、『希望』なんスよ″
なのに僕は──吉岡が見せた動画に惑わされて、モルを疑ってしまった……
「……解放して欲しかったら、実践して結果を出すんだな」
弱みを見つけたとばかりに、真木の尖った瞳が冷たく光る。
そうして摘まみ上げていた袋を、痺れを切らしたのか苛立たしい様子でテーブルに叩きつけた。
「……でもよー」
ウエイトレスが注文した料理を全て運び終えた後、徐に愁が口を開いた。
「菊地さん始末した所で、棲寝威苦 のリーダーが黙ってねーんじゃねぇの……?」
言葉の内容とは裏腹に、呑気にフォークでハンバーグを突く。
「……」
それは、僕も感じていた。
棲寝威苦 のリーダーである深沢と菊地には、太い繫がりがある。
菊地は簡単に自殺するような人ではないと思うし……そう見せかけた所で、深沢に直ぐ見抜かれてしまうんじゃないか……
「……バーカ。蕾 の話、ちゃんと聞いてなかったのか……?」
僕が白い粉の入った小袋を手にした事で、穏やかな顔つきに戻った真木が、軽く溜め息混じりに言い放つ。
「……蕾先輩の話、って……何ですか……?」
マルゲリータピザに手を伸ばす真木に、和食御膳の前で手を合わせた五十嵐が、お得意の無遠慮な質問で踏み込む。
「──ああ。そういや、五十嵐には言って無かったな」
ニヤリと口元を緩ませた真木が、テーブルに片肘を付き、顔を寄せながらこっちに寄れと手で指示を出す。
「棲寝威苦 のリーダーは、菊地さんだ」
……え……
思ってもみない方向からの台詞に、脳内が揺れた──
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