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第176話
「……それなら」
伸ばした手を、寸前で止める。
「僕からも、お願いが……」
「……なんだ」
──ドクン、ドクン……
真木の眼が、中々受け取らない僕に苛ついた色を見せる。
僕を支配しようとする双眸。身体に緊張が走り、それに怯みそうになるのを何とか飲み込む。
「先にモルを、解放して」
モルは、ただ巻き込まれただけ──あの小さな身体で、猟奇的な龍成から僕を守ろうとしてくれた。
『……俺にとって姫は、“希望”なんスよ』
なのに僕は──吉岡が見せた動画に惑わされて、モルを疑ってしまった……
「……解放して欲しかったら、実践して結果を出すんだな」
弱みを見つけたとばかりに真木の尖った瞳が冷たく光る。
バンッ、
痺れを切らしたんだろう。摘まみ上げていた袋を、苛立たしい様子でテーブルに叩きつけた。
「……でもよぉー」
注文した料理を運び終え、ウェイトレスが去っていくのを見届けた愁が徐に口を開く。
「菊地さん始末した所で、vaɪpərのリーダーが黙ってねーんじゃねぇの?」
言葉の内容とは裏腹に、呑気にフォークでハンバーグを突っつく。
「……」
それは、僕も感じていた。
vaɪpərのリーダーである深沢と菊地には、太い繫がりがある。菊地は簡単に自殺するような人ではないと思うし、例えそう見せかけても、深沢に直ぐ見抜かれてしまうんじゃないか……
「……バーカ。蕾 の話、ちゃんと聞いてなかったのか……?」
僕が白い粉の入った小袋を手にした事で、気を良くしたんだろう。真木が穏やかな顔付きでそう言い放つ。
「……蕾先輩の話、って……何ですか……?」
マルゲリータピザに手を伸ばす真木に、和食御膳の前で手を合わせた五十嵐が、お得意の無遠慮な質問で踏み込む。
「──ああ。そういや、五十嵐にはまだ言って無かったな」
ニヤリと口元を緩ませた真木が、テーブルに片肘を付き、顔を寄せながらこっちに寄れと手で指示を出す。
「vaɪpərのリーダーは、菊地さんだ」
……え……
思ってもみない方向からの台詞に、脳内が揺れた──
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