179 / 558
第176話
複数の男女を無差別にレイプしまくっていた蕾は、15歳で逮捕。
収監先の少年院には、犯罪者達を纏めていた菊地が君臨していたという。
「そん時の菊地さんは既に、太田組幹部の桜井って人物と太い繫がりがあったらしい。何度か面会に来ていたって言ってたからな」
……桜井……
聞いた事もない。
それに、モルの話だと太田組は、大友組と虎龍会に分裂したと言っていた。
そんな事を考えていると、真木が得意気な顔つきに変わる。
「……それにな」
蕾が入所して数年後──殺人及び殺人未遂の罪で逮捕された人物が収監された。
蕾の話によれば、入った当初は物静かで、そういったオーラは一切感じなかったという。
そのせいか。その日の内に、鬱憤の溜まった奴等から洗礼──食事中に絡まれ、盆の上のものを全て床に落とされ、それを這いつくばって食べろとの命令──を受けた。
しかし彼は、俊敏に飛び掛かり、その主犯を素早く床に倒して捩じ伏せると、何の躊躇もなく所持していた箸を振り上げ、相手の片目に突き刺した。
院内で。他の受刑者や監視員が居る中で。
強烈な障害事件を起こした彼は、他から一目置かれる存在となった。が……
「そんな狂犬を、菊地さんは手懐けたらしい」
その後は売られた喧嘩を買う位で、特に問題行動を起こさなかった彼は、異例の早さで保釈された。
それは──裏社会に生きるに相応しい人物だと見抜いた菊地が、桜井に彼の話を持ち掛け気に入られた事で、暴力団組織の人間になるのを条件に、その様に取り計らわれたのだという。
「……ああ、それなら雷から聞いたぜ。
太田組の辻田龍成って奴だろ?」
ライスを口いっぱいに頬張りながら、愁が横入りする。
「……え」
……辻田……龍成……
瞬間、ドス黒いオーラを放つ龍成の顔が脳裏を過った。
確かに龍成は、菊地の事を『昔世話になった人』と言っていた。
殺人というのは、ハイジが話してくれた、孤児院の所長の事……だろうか。
妙な繫がりに、胸の奥底がドクドクと震える。
「……」
それにしても……
さっきから気になるのは、この人達が『太田組』と言っている事。
太田組は既に存在せず、大友組と虎龍会に分裂したはず。
暴力団の抗争を知らないのか。五十嵐が言うように、それだけ情報を遮断されているのだろうか。
「……他にもそういう斡旋はあったんだろうな。
蕾も仮出所の時、菊地さんに声を掛けられて、棲寝威苦 の一員になったからな」
冷めたピザを口に押し込めた真木は、コーラでそれを飲み下した。
ともだちにシェアしよう!