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第178話 嫉妬

××× 長い夢を見ていた気がする。 何処からが夢で、何処からが現実なのかは解らない程……長い夢。 だけど、目を開けて天井を見れば、それが揺るぎない現実だと思い知らされる。 仄暗くなった部屋に灯りはなく、時折窓ガラスを叩きつける風が吹くだけ。 カタカタとなるそれに不気味さを感じつつ、まだ微睡みから醒めない頭を抱えながらベッドを下りた。 ふと視界に入ったサイドテーブル。 無造作に置かれた、白いビニール袋。 その中央には、倫の店の赤いロゴマーク。 ……いつの間に…… 思わず額に手を寄せる。 さっき、僕に触れたのは……現実……? 出ていったのは……また倫の店に戻った、とか……? 「……!」 そう思った瞬間── 何故か解らない。 解らないけど………ギュッと胸が締め付けられて…… ──嫌だ、って思った。 この気持ちが何なのか…… 僕自身の事なのに……全然解らない…… ……苦しい…… 菊地の事が、好き……? ……違う。そんな単純なものなんかじゃない、はず。 ストックホルム症候群の、症状のひとつ……なのかもしれない…… でも、多分違うかも──親に見放されそうな子供とか、主人に捨てられそうなペットとか……なんか、そんな感じ…… はぁ……と溜め息をつく。 竜一という軸を失ってから……情けない程に気持ちが不安定になってる。 ぽっかりと空いた穴は、そう簡単に埋められそうもない。 ……だから、何かで埋めたいのかも。 空いたままじゃ……苦しいから…… 気を紛らわせようと、熱いシャワーを浴びる。 朝、慌ただしくてそのままだった……精液で汚れた身体。 もう鼻が慣れてしまったからか、臭いが解らないけど……石鹸で丁寧に洗う。 ザーッ 目を瞑り、顎を突き出し、顔からシャワーを被る。 流れ伝う水が肌に纏わり付き、表面の汚れを洗い流す。僕を温かく、包み込んでくれるみたいに。 このまま全てを洗い流せたらいいのに。 今日の事も……全て無かった事にできたら…… ──白い粉。 思い出すだけで、胃がギリッと痛む。 モルを助けたい。 けど…… 「……」 重たくなった前髪の毛先から、ぽたぽたと滴り落ちる雫。 僕の代わりに、涙を流してくれたような気がした。

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