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第185話

はぁ……はぁ…… 「………可愛いな」 息が整わないまま、瞼を薄く開ける。 蕩けた瞳を向ければ、僕をトロトロに甘やかす瞳が覗き込んでいた。 「イった顔も、声も……」 「………ゃだ……、」 軽く折り曲げた四本の指。その背を僕の頬に当て、こめかみへと滑らせると、横髪に絡ませ愛おしげに梳いた。 「……嫌か?」 ふっと笑い、軽くキスをする。 物足りなかったのか……僕の瞳を暫く合わせた後──肩、鎖骨、鼻先、と啄むキスを落とし、最後に唇を重ね、舌を絡めた深いキスを交わす。 甘い匂い。 シーツの擦れる音が、やけに耳についた。 「……五十嵐と、なんかあったか?」 バスルームに引っ張り込まれた僕は、壁に手を付いてお尻を突き出し、菊地にナカを掻き出されていた。 「………べつ、に……」 何事もなく答えるものの、鉛を飲み込んだように胃が重くなる。 サイドテーブルの引き出しに隠した、白い粉。……見つかる前に、早く捨てなくちゃ。 「お前、五十嵐とはどんな関係だ」 「……え」 菊地の唐突な言葉に弾かれ、顔を上げて振り返る。水飛沫が、濡れた髪から飛び散った。 ザーッ シャワーヘッドを持つ、菊地の腕が下がる。渦を巻き、排水口に吸い込まれる湯水。 同じ学校の生徒──同級生。 そんな事は、既に調べ上げて解っている筈…… なのに、どうしてわざわざそんな事を、僕に………? 間近でぶつかる、視線。 僕をじっと見据える、瞳。 何かを探るように……僕の心を裸にされてしまったら──もう、何も隠せない…… 「……」 「………まぁ、いいや」 静かに指が引き抜かれる。割れ目にシャワーが当てられ、綺麗に洗い流された。 一瞬漂った、妙な空気。 それが払拭された、……のかは解らないけど、身体から緊張感が抜ける。 「別に、責めてる訳じゃねぇ……」 そう言い、相変わらず鋭い目付きのまま、僕の項にシャワーを当てる。水圧の強さと温かさ。少しだけ冷えた身体が、温もっていく。 「……ん、」 菊地のこういうさり気ない気遣いが、好き。がさつで乱暴な所はあるけれど、僕の事を考えてくれて、想ってくれてるのが解る。──心を擽られるように、心地良い。 「……今日、さくらを五十嵐に預けたのは、あのままお前を逃がそうと思ったからだ」 ……え…… どうして…… ズクン、と胸の中が疼く。 確かに僕は、抱かれる為にここに来た。それが果たされれば、直ぐに解放されるものだと思ってた。 ………だけど、今は違う。 ここを離れたくない。捨てられたく、ない……… 「五十嵐がお前と一緒に逃げたがってんのは、前々から気付いてた。 それが単なる正義感だけじゃない事もな」 「……」 僕の頬を撫で、菊地が寂しそうに口端を少しだけ上げた。 「お前が五十嵐を、ベッドの上で色っぽく誘ってたのを思い出すと…… もしかしたらお前も……そう望んでるんじゃねぇかって思ってよ……」

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