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第191話
……この感じ、知ってる……
菊地に手を引かれて入った、広いフロア。
ラウンジのようなそこは、壁側は全面ガラス張りになっていて、そこから煌びやかな夜の街が一望できる。
内装は勿論、家具や照明、装飾品に至るまで品格がある。本来は、恋人同士が寄り添って愛を語らうような、落ち着いたムードの漂う場所なんだろう。しかし……
キャー!
アハハハ……
その雰囲気を見事にぶち壊す、激しいダンスミュージック。それが遠慮なくガンガンに鳴り響き、恐らく持ち込んだであろうディスコボールの光が、そこかしこに散らばって踊り狂う。
何人もの男女が酒を呷り、バカ騒ぎをする一方、照明から逃れるように端に立つ人達は、いい雰囲気で身体を密着させていた。
「……いらっしゃい」
声を掛けられて見れば、そこにいたのは──倫。
切れ長で涼やかな瞳。紅を引いた様な赤い唇。凜とした表情。
その顔立ちと細い体型によく似合う、膝上丈のチャイナドレス。白地に品のある銀の花の刺繍が施され、肩口と右太腿辺りにあるスリット部には、白いレースが装飾されていた。
「おぅ、倫か。……何だ、女装なんかして」
「……ふふ。似合う?」
挑発してるのか。腰に手を置き、身を捩ってその細さを強調する。そうしながら右足を軽く持ちあげ、深く入ったスリットから白くて細い太腿をチラリと見せた。
「………いい趣味してんな」
「言っておくけど、私の趣味じゃないわよ」
意地悪げに流し目をした倫が、緩く口角を持ち上げて揶揄う。それに対し菊地は、穏やかな笑みを返す。
「……」
やっぱり、モヤモヤする。
この煌びやかなパーティー会場に、いつものフード付きシャツとショートパンツ、そしてニーハイソックスという格好の僕は、見事に浮きまくっている。
五十嵐と買い物に出掛けた時、もっとお洒落な服を買っておけば良かった……
倫のドレス姿と見比べた後、シャツの裾を掴んで引っ張り下げる。そんな僕を他所に、菊地が倫との会話を弾ませていた。
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