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第189話
……この感じ、知ってる……
菊地に手を引かれて入った、広いフロア。
ラウンジのようなそこは、壁側は全面ガラス張りになっていて、そこから覗く夜の街が一望できる。
家具や照明、装飾品に至るまで品格がある。本来は落ち着いた雰囲気で、カップルが寄り添って愛を語らうようなムード漂う場所なんだろう。しかし……
キャー!
アハハハ……
その雰囲気を見事にぶち壊す、ダンスミュージック。それがガンガンに鳴り響き、恐らく持ち込んだであろうディスコボールの光が、そこかしこに散らばって回る。
何人もの男女が酒を呷り、バカ騒ぎをする一方、照明から逃れるように端に立つ人達は、いい雰囲気で身体を密着させている。
「……いらっしゃい」
声を掛けられて見れば、そこにいたのは倫だった。
相変わらずの涼やかな瞳。紅を引いた様な赤い唇。凜とした表情。
その顔立ちと細い体型によく似合う、膝上丈のチャイナドレス。白地に品のある銀の花の刺繍が施され、肩口と右太腿辺りにあるスリット部には、白いレースが装飾されていた。
「おぅ、倫か。……何だ、女装なんかして」
「……ふふ。似合う?」
挑発してるのか。腰に手を置き、少し捻ってその細さを強調する。そうしながら右足を軽く持ちあげ、深く入ったスリットから白くて細い太腿をチラリと見せた。
「………いい趣味してんな」
「言っておくけど、私の趣味じゃないわよ」
意地悪げに流し目をした倫が、緩く口角を持ち上げて揶揄う。それに対して菊地は、穏やかな笑みを返す。
「……」
やっぱり、モヤモヤする。
この煌びやかなパーティー会場に、いつものフード付きシャツとショートパンツ、そしてニーハイソックスという格好の僕は、見事に浮きまくっている。
五十嵐と買い物に出掛けた時、もっとお洒落な服を買っておけば良かった……
倫のドレス姿と見比べた後、シャツの裾を掴んで引っ張り下げる。そんな僕を他所に、菊地が倫との会話を弾ませていた。
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