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第192話
──やめ、ろ……
手癖の悪い樫井に、持っていた皿を顔に投げつけてやりたい衝動に駆られる。
……だけど、そんな事できない。
食べ物を粗末にしたくないというのもあるけれど……菊地が僕にと、盛ってくれたものだから。
「……一体、なにを企んで……」
「アゲハが俺に、全然靡いてくれなくてさ。
君との動画を見せて、言うことを聞かせようかと思って」
「──!」
……え……
まともじゃない考えに、ゾクッと背筋が凍る。
よく見れば、樫井秀孝の頬は痩せこけ、瞳も虚ろで……人気絶頂だったあの頃のオーラは、もう微塵も感じられない。
こんなに落ちぶれながら、まだアゲハに執着して……つきまとっているなんて……
……それともまさか……アゲハを、監禁してるとか………
「……っ、!」
クラッ……と立ち眩みがした。
脳内がグラグラと揺れ、じりじりと痺れる。
ぐにゃりと視界が大きく歪めば、身体から力が抜け落ち……平行感覚を失って、まともに立っていられない。
……はぁ、はぁ……
「……いい匂いがするね。甘くて、雄を誘う匂いだ。堪らない。……やっぱり君も、アゲハの次に美味しそうだ」
「……、ん」
「そのうち、兄弟丼も味わってみたいな……」
耳元に寄せられる、唇。
その唇から紡がれる、厭らしい台詞。
柔肌に掛かる熱い吐息。
酒の臭いに混じる、甘くて爽やかな香り……
「……おっと、」
膝から崩れる僕を樫井が抱き支える。背中と腰に回る手。荒い息遣い。
頭がぼぅ、として白んでくる。まるで、逆上せたみたいに……
……はぁ、はぁ……
樫井の脇に掴まり、息を乱したまま身を委ねれば、腰に回されていた手がスルリとショーパンの中に侵入する。
「……!」
な、に……これ……
ゾクゾクッ……と背中に快感が走る。
甘い痺れが広がり、きゅぅとナカが疼く。
肌の上を、ただ擦られただけなのに……
……やだ……
身体が、すごく熱くて……ヘンになる……
「……やっと、効いてきたね」
「え……」
効いてきた……って、なに……?
……まさか……媚薬……?!
でも、どうして……
……飲まされてなんか、ない……のに……
「……っん、」
手から皿が滑り落ち、カランッと足元で音がする。
だけど、ガンガンに鳴り響く音楽のせいか、注目を集める程の音じゃなくて。
……いや、だ……
コイツにまた、思い通りにされるなんて……
「………ひぁっ、!」
指先が、お尻の割れ目に食い込む。
ゆっくり蠢き、窄まった襞を何度も舐られれば、意思とは関係なく身体が反応してしまう。
「……恥を掻かされた分、しっかり奉仕して貰うよ」
やっぱり……
地に落ちたのは、僕のせいだと思い込んでいる。
自分が蒔いた種なのに。
「……や」
床が、揺れる。波打つようにうねって。
もう、照明の光さえ……熱い……
熱い……
「……おい!」
朦朧とする意識の中で、遠くから声が聞こえた。
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