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第195話

「俺の連れに、何か用か──?」 鼓膜を震わせるのは、菊地の声。 声色から、威嚇しているのが解る。 ……ダメ…… 僕のせいで、暴力沙汰とか…… 瞬間──脳裏を過ったのは、浜辺で僕にナンパをした男達の末路。 ハイジの奇襲攻撃により、顔中血だらけになって……… 「……ああ、失礼。急に僕に倒れかかってきたので……どうしたのか、声を掛けていたんです」 「そうか……なら心配いらねぇ」 菊地の返しに、樫井が小さくチッと舌打ちする。 「……さくら、来い」 「ん……」 樫井の手が離される。ふらつきながらも近付く菊地の胸に飛び込めば、僕を安心させるかのように背中に手のひらが当てられた。 ……浸出液特有の、匂い。 菊地の、匂い…… 「世話かけて悪かったな」 「……いえ、全然」 ……良かった……何事も無くて…… 菊地に抱えられながら、ほっと息を漏らす。 樫井は嫌な奴だけど。 僕のせいで、二人の人生を狂わせるような事になったら、嫌だから…… それに── 『アゲハの居場所、教えろ』 龍成が、アゲハを探している。 もし樫井が、アゲハの居場所を知っていて…… ……いや、アゲハを何処かに拉致監禁しているのだとしたら── 「何もされてねぇか?」 「……うん」 肩を抱かれ、フロアの中央へと誘導される。 触れられた所が、熱い…… 「………お前、熱いな」 「ん……、お酒………間違って、飲んじゃって……」 すれ違う人達が手にしていたシャンパングラスが目に移る。 咄嗟についた嘘だけど──見破られたり、しないだろうか…… 「……そうか」 素っ気ない返し。 チラリと後ろを振り返った菊地は、既に去ったであろう樫井を睨みつけている様な気がした。 ……少し落ち着けば、媚薬は抜けると思ってたのに。 身体の疼きが治まらない。 樫井の、あの甘い匂いにあてられただけ……じゃなかったの……? フロアの奥へと進めば、VIPルームへと続くドア前に二人の男が立ちはだかっていた。 ボディガードなんだろうか。筋肉隆々の体格。強面。威嚇するように菊地と僕を睨んだ後、無言でスッと避け、ドアを開ける。 豪勢な家具や装飾品。煌びやかな照明。 ガンガンにダンスミュージックが鳴り響き、薄暗い中ディスコボールの光が暴れ回るフロアとは違い、静かで落ち着いた空間。 「……よぉ、深沢」 本革のソファにドカリと座っている男が、口の片端をクッと持ち上げた。

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