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第194話

白が好きなんだろうか。 サラサラとした、無機質なホワイトヘア。 着ているスーツも革靴も白で、割れた唇から覗く歯の色まで、異常に白い。 真っ白な純潔に(まみ)れる中、似合っている筈のパステルブルーのカラコンが、妙にしっくりこないのは……何故だろう。 深沢──この人が、棲寝威苦(スネイク)のリーダー…… 真木達が言っていた通り、格好良い雰囲気と華のあるビジュアルを兼ね揃えている。 カリスマ性っていうんだろうか。 親しみを感じさせつつも、アンダーグラウンドの危険な香りとオーラが滲み出ていて、妙に惹きつけられる。 雰囲気だけで言えば……芸能界に疎い僕でも知っている、中高生に人気のモンスター・ダンスグループみたいな感じ。 「倫の言った通りだな」 ニヤリと口元を緩ませた菊地が、深沢の周りに目をやる。そこには彼を取り囲むようにして、妖艶にしな垂れかかる7人の女性が。 モデル並みのグラマラスなスタイル。美脚。露出度の高い、白のオフショルダードレス。肌も透き通るような美白で、髪も艶感のある白。 ネイルも。カラコンも。そして、光沢感のある口紅を塗った唇も。 深沢の好みに合わせたのか、文字通り頭の天辺から足の爪先まで、白一色。 「……何がだ?」 「女の趣味」 菊池の言葉に、深沢がハハッと吹き出す。 「お前もな。……とうとう子供(ガキ)にまで手ぇ出したか」 「………その子供(ガキ)に、お前がゲストで呼んだ樫井秀孝が、手ぇ出してきやがった」 「──!」 菊地の台詞に、深沢の表情が一瞬で変わる。 それを確認した菊地は、僕の肩を抱き、少し乱暴に引き寄せた。 「工藤さくらだ。……名前ぐれぇは聞いた事あんだろ」 「──ああ。若葉の甥、だよな」 組んでいた足を戻し、前屈みになる深沢。パステルブルーの瞳がゆっくりと上下に動く。まるで新種の生物でも見るかのように、僕を品定めて。 「樫井の事務所に警告しておく。……それでいいか?」 「ああ」 「……で。俺に話ってのは……?」 瞳が菊地に向けられる。 先程とは違う、鋭く尖った瞳。 ……そうだ。違和感を感じたのは、カラコンのせいじゃない。覆われた薄い膜の奥に潜む黒い瞳から、隠せない程のドス黒い邪気を感じるせいだ。 深沢が軽く手で払う仕草をすれば、周りにいた美女達が、黙って部屋を出て行く。 まだ媚薬が抜け切れていない僕を支え、菊地が下座のソファに座らせてくれた。 「……随分な入れ込みようだな」 「まぁな」 「らしくねぇ」 「……だろうな」 深沢の言葉に、茶化す事無く菊地が返す。 口元を緩ませ含んだ深沢が、僕の太腿と首元を食い入るように眺めた。 「……、」 内腿を擦り合わせる。 媚薬のせいか、視姦されているような気分…… 「お前に惚気てぇぐれぇ、本気(マジ)だ」 「………ふ、マジなのかよ」 呆れたように笑う深沢。

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