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第196話

白が好きなんだろうか。 サラサラとした無機質なホワイトヘア。 着ているスーツも革靴も白く、割れた唇から覗く歯の色まで異常に白い。 真っ白な純潔に(まみ)れる中、似合っている筈のパステルブルーのカラコンが、妙にしっくりこないのは何故だろう。 深沢───この人が、vaɪpər(毒蛇)のリーダー…… 真木達が言っていた通り、格好良い雰囲気と華のあるビジュアルを兼ね揃えている。 カリスマ性、っていうんだろうか。 親しみを感じさせつつも、裏社会(アンダーグラウンド)の危険な香りとオーラが滲み出ていて、妙に惹きつけられてしまう。 それはるで、芸能界に疎い僕でも知っている中高生に人気の『モンスター・ダンスグループ』。ひと昔前に一世風靡した『ビジュアル系バンド』。……といった所か。 「倫の言った通りだな」 ニヤリと口元を緩ませた菊地が、深沢の周りに目をやる。そこには、彼を取り囲むようにして、妖艶にしな垂れかかる7人の女性達。 モデル並みのグラマラスなスタイル。美脚。露出度の高い、白のオフショルダードレス。肌も透き通るように美白で、髪も艶感のある純潔の白。 ネイルも。カラコンも。睫毛も。光沢感のある口紅を塗った唇も。 深沢の好みに合わせたのだろう。文字通り、頭の天辺から足の爪先まで真っ白。 「……何がだ?」 「女の趣味」 菊地の言葉に、深沢がハハッと吹き出す。 「お前もな。……とうとう子供(ガキ)にまで手ぇ出したか」 「………その子供(ガキ)に、お前がゲストで呼んだ樫井秀孝が、手ぇ出してきやがった」 「──!」 菊地の台詞に、深沢の表情が一瞬で変わる。 それを確認した菊地は、僕の肩を抱き、半ば乱暴に引き寄せた。 「工藤さくらだ。……名前ぐれぇは聞いた事あんだろ」 「──ああ。若葉の甥、だよな」 組んでいた足を戻し、前屈みになる深沢。僕を見据えていたパステルブルーの眼が、ゆっくりと上下に動く。まるで新種の生物でも観察するかのように。品定めをしながら。 「樫井の事務所に警告しておく。……それでいいか?」 「ああ」 「……で。俺に話ってのは?」 深沢の視線が、菊地へと向けられる。 先程までとは違う、鋭く尖った眼─── ……そうだ。違和感を感じたのは、カラコンのせいじゃない。覆われた薄い膜の奥に潜んでいる黒瞳から、隠せない程のドス黒い邪気を感じるせいだ。 深沢が軽く手で払う仕草をすれば、周りにいた美女達が、黙って部屋を出て行く。 まだ媚薬が抜け切れていない僕を支え、菊地が下座の二人掛けソファに座らせてくれた。 「……随分な入れ込みようだな」 「まぁな」 「らしくねぇ」 「……だろうな」 深沢の言葉に、茶化す事無くさらりと返す。 含んだように口元を緩ませた深沢が、僕の太腿と首元を食い入るように眺める。 「……、」 内腿を擦り合わせる。 媚薬のせいか、視姦されているような気分…… 「お前に惚気てぇぐれぇ、本気(マジ)だ」 「………ふ、マジなのかよ」 呆れたように深沢が笑う。

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