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第197話
「で。話っつーのは……vaɪpər が弱小化してる件だ」
先程までとは違い、菊地が堅い表情に変わる。それにつられたんだろう。テーブルに置かれたワイン料理に手を伸ばした深沢が、真剣な眼で返す。
「知っての通り、各グループの実行班が何人か摘発され、芋づる式に班長クラスまで検挙さ れている。
これだけ警察 の検挙率が上がったのは、グループ自体の体制が弛んできたせいか。或いは、一般から吸い上げた実行メンバーの中に、警察関係者やその繋がりを持つ者が潜んでいるかのどちらかだ。
下っ端含め、俺らvaɪpərは、詐欺や恐喝等の各グループに、何時でも何処でも自由な出入りが可能。つまり……」
「その検挙された班のメンバーを洗い出せば、裏切り者がわかる……と?」
「ああ。そう睨んで調べてみたが、被って在籍している怪しい奴はいなかった。
……が。面白い奴を一人、見つけたんだよ」
取り出したスマホを操作し、簡単に料理を退かした菊地がテーブルの真ん中に置く。その画面をチラリと見れば、何処かで見た事のある女性の顔写真だった。
「愛沢響平 。──太田組のチンピラ、愛沢凌平の弟だ」
「──!」
……え……
驚いて、もう一度画面に目をやる。
ワンレンボブは、恐らくウイッグなんだろう。
気の強そうなつり目。童顔。深紅の唇。
……この人……
ハルオの所にいた、あの高飛車な男だ……
あの時ハルオは、彼を単なるセックスフレンドだって言ってた。
けど……それだけじゃなかった……
純喫茶で再会した時、確かにハルオは……弟を泣かせた恨みを買ってしまったせいで、僕が危ないと──
「……チッ。女装子か」
「何言ってんだ。倫にチャイナドレス着せといてよ」
スマホを手にして確認した深沢が、訝しい表情のまま菊地に返す。
……でも。
その凌も、僕を陥れようとしたとはいえ……僕のせいで……
「愛沢凌平が始末されたのは、知ってるか?
上納金を納めるのもままならなかった奴が、ゲスいやり口で荒稼ぎしてたからな。
……ほら、去年あったろ。
家出少女をアパートに拉致監禁して、売春斡旋やアダルトビデオ製作をしてたっていう奴だ」
「……ああ。顧客名簿が一部メディアに流出して、問題になったヤツな」
……確か……
大物芸能人とか、政治家とか……
有名な人の名前が流れてしまって……
……それで、圧力が掛かって揉み消されたって……モルが……
「そうだ。あん時は、愛沢の自殺で片を付けた様だが……奴は単なる実行犯だ。奴に肩入れし、入れ知恵つけて著名人との繫がりを支援してた奴が|裏《バック》にいる」
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