199 / 558
第196話
菊地の言葉に、深沢の片眉がぴくりと動く。
「……それで?」
シャンパングラスを持ち、口角を上げた深沢の目が据わる。
相変わらずの、涼やかな表情。
全体的な白さがかえって、冷徹さを感じる。
「それとうちと、どんな関係があんの……?」
……確かに、そうだ。
その情報だけでは、凌の事件と棲寝威苦 の繫がりを証明するには難しい。
「先日、女装した響平を捕まえた。
そのままホテルに連れ込み、拷問して口を割らせた。……蕾を使ってな」
……え
″……新人教育だよ″
″引っ掛けた女をホテルに連れ込んで、類に夜通しヤらせたんだとよ″
あの時、真木が五十嵐に話していたのは……これだった、って事……?
「……ゲスいな」
「ああ……」
「で、何をゲロった?」
手を組み、顎を突き出した深沢が菊地を見下げる。
「……凌平を世話したっつー奴の方から近付いてきて、奴に色々吹き込んでいたらしい。
凌平が自殺ではなく、他殺。
その命令を下したのは、同じ組の幹部。
そして、凌平に直接手を掛けたのが……棲寝威苦 の人間だ、って事をな」
「……」
菊地が手を伸ばし、割りものである炭酸水のペットボトルを取る。
ゴクッゴクッ……
良く動く喉仏。
汗をかいているのか。少し湿ったその首筋から、菊地の匂いがし……顔を埋めたい衝動に駆られる。
ぼんやりと見上げる僕に気付いた菊地が、半分程残ったそれを差し出した。
「飲むか……?」
「………ん…」
「もう少しだから、大人しく待ってろ」
濡れた、唇。
割れたそこから僅かに見える、舌。
──ズク、ンッ
触れたい………キス、したい……
エレベーター内でしたような
舌を絡める程の、濃厚なキス……
「……ん、」
……熱い
熱くて、辛くて、怠い。
中々抜けてくれない、媚薬。
こんなに近くにいるのに、触って貰えないもどかしさ。
……ダメ。こんな所で……
胸元を摑み、熱を冷まそうとパタパタ動かす。
「……それ、桜井さんと真木の事か?
でもやったのは、他の奴だったよな。
しかも真木は、他殺から自殺に偽造工作しただけ……だろ?」
シャンパンを煽った後、深沢が口を開く。
──桜井。
確か……菊地が少年院にいた時から繫がりのある、暴力団幹部………って、真木が言ってた。
「……ああ。だが響平は、真木が殺ったとは言ってねぇ。
──深沢、お前だ」
ともだちにシェアしよう!