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第198話
菊地の言葉に、深沢の片眉がぴくりと動く。
「……それで?」
シャンパングラスを持ち、口の片端を上げた深沢の目が据わる。
相変わらずの、涼やかな表情。
全体的な白さがかえって、冷徹さを助長させる。
「それがうちと、どんな関係があんの……?」
……確かに、そうだ。
その情報だけでは、凌の事件とvaɪpərの繫がりを証明するのは難しい。
「先日──女装した響平を捕獲した。そのままホテルに連れ込んで、拷問して口を割らせた。……蕾を使ってな」
……え……
『……新人教育だよ』
『引っ掛けた女をホテルに連れ込んで、類に夜通しヤらせたんだとよ』
──あの時、真木が五十嵐に話していた洗礼って───
「……ゲスいな」
「ああ……」
「で、何をゲロった」
シャンパングラスを持ったまま上体を起こし、背もたれに身体を預けた深沢が顎を突き出して菊地を見下げる。
「……凌平を世話してた、って奴の方から近付いて、あること無いこと吹き込んでたらしい」
「……」
「凌平は自殺ではなく他殺。その命令を下したのは同組の幹部。
そして、直接手を掛けたのが……vaɪpərの人間だ、ってな」
「……」
菊地が手を伸ばし、割りものである炭酸水のペットボトルを取る。
ゴクッゴクッ……
良く動く喉仏。
汗をかいているのか。少し湿ったその首筋から菊地の匂いがし……顔を埋めたい衝動に駆られる。
ぼんやりと見上げる僕に気付いた菊地が、半分程残ったそれを差し出す。
「飲むか……?」
「……、ん…」
「もう少しだから、大人しく待ってろ」
濡れた唇。
割れたそこから僅かに見える、赤い舌先。
───ズク、ンッ、
キス、したい……
エレベーターの中でした、舌を絡めるような……濃厚なキス……
「……ん、」
……熱い。
熱くて、辛くて、……怠い……
中々抜けてくれない媚薬。
こんなにも近くにいるのに……触って貰えないもどかしさ。
……ダメ……こんな所で……
胸元を摑み、籠もった熱を冷まそうと、パタパタと襟口を動かす。
「……それ、桜井さんと真木の事か? でも、やったのは他の奴だったよな。
しかも真木は、偽造工作しただけ……だろ?」
シャンパンを煽った後、深沢が口を開く。
───桜井。
確か……菊地が少年院にいた時から、繫がりのある……暴力団幹部って、真木が言ってた。
「……ああ。だが響平は、真木が殺ったとは言ってねぇ。
───深沢、お前だ」
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