200 / 558
第197話
しん、と静まり返る空間。
微動だにしない二人。
その間に流れる空気が、ピンと張り詰める。
それを先に打ち破ったのは、深沢だった。
「……ハハ。俺かよ!」
「笑い事じゃねぇ。
お前を恨んでる奴が、響平を使って復讐しようとしてるって事だろ」
軽い笑みを漏らし仰け反る深沢に対し、緊迫した姿勢を崩さない菊地。
その菊地が、続けて口を開く。
「……何か、心当たりねぇか?」
「んなの知るか。……俺に恨みを持つヤツなんざ、ゴマンといるだろ。
……何せ俺らは、コンクリ詰め事件の──」
言いかけて、ハッとした顔を見せる。
眉間に皺を寄せ、何処か苛ついていた態度が一変し、目を見開いた深沢が真っ直ぐ菊地を見返した。
「………悪ぃ」
「いや、気にすんな」
静かに息をつく菊地に、深沢の瞳が物憂げに変わる。
「……気にしろ、少しは」
「罪ならちゃんと償ったろ。……俺はもう、気にしちゃいねぇよ」
菊地の科白に深沢の瞳が小さく揺れ、直ぐに鋭く尖る。
「………またそれか。
お前には、償う罪なんて無かったろ」
「……!」
……え……
それ……どういう、事……?
よく解らないまま、重い瞼を何とか押し上げ……二人の様子をぼんやりと眺める。
「お前を裏切って、全ての罪をなすりつけたのは……俺だ」
「──そのお陰で、倫が救われた」
険しい顔で低く唸る深沢に、菊地が穏やかな表情でサラリと答える。
その態度がまた、火に油を注いだのだろう。
「綺麗事言いやがって……」
視線を逸らした深沢が、苦々しく奥歯を噛み締める。
前屈みになったまま両手を強く握り、モヤモヤと燻った胸の内を吐き出せない苛立ちを見せた。
「お前のその聖職者ぶった態度が、気に食わねぇ。
……少しは俺を憎んだらどうだ」
法で裁かれていない罪に、苛まれているのだろうか。菊地に恨まれる事で、その罪の重さから解放されたい……のかもしれない。
「もう止せ。終わった事だ」
そう言い放った菊地が振り返り、傍らに沈む僕に視線を落とす。
その視線を辿って菊地を見上げれば、愛おしむ様に目を細め、口端を僅かに上げていた。
優しさが滲み溢れた、微笑み……
「………」
……この人は……
コンクリ詰め事件の、主犯なんかじゃ……ない……
もしかしたら
その事件自体に、関わって居ないのかもしれない──
ともだちにシェアしよう!