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第201話 飛ぶクスリ

××× 一瞬、意識を失っていた。 重い瞼を持ち上げれば、悪酔いしたように景色がぐるんと大きく回る。 まるでメリーゴーランドに乗っているみたいに、脳内が揺れて……気持ち悪い。 フロアに鳴り響く、激しいダンスミュージック。半狂乱で踊る人々。 顔までは認識できない……酷く手ぶれした動画を見ているかのよう。 加えて、チカチカと光るストロボ。 気が、おかしくなる…… 「……ちょっと待ってろ」 これまで僕を支えてくれた手が、ふと離れる。 ……消えていく、温もり。 「………ゃ、」 近くの壁に手を付き、身を預ける。そのガラスに身体の熱を奪われながらも、重い瞼をこじ開け、遠ざかっていく背中を縋るように見つめた。 ……え…… その先にいたのは、倫。 白いチャイナドレスの腰辺りに手を回し、グッと身体を引き寄せ、顔を覗き込むようにして倫を見つめ返す。 近すぎる距離。お似合いの二人── 「………」 嘘…… うそ…… 華やかな格好をした人々が、僕の目の前を行き交う。その度に遮られる、二人の姿。 ……ズル、ズルズル…… もう、立ってなんかいらなくて……放心状態のまま膝から崩れ落ちる。 ……はぁ、はぁ…… やだ、もう………熱い…… ボーッとする脳内。 ショックで胸が張り裂けそうなのに、内側から沸き上がる性欲に……もう、勝てそうもない。 ……やだ……こんなの…… 目の縁から、熱いものが零れ落ちる。 ………欲し、い…… 下半身が、無情にも疼く。 「──えー、お集まりのみなさーん!   盛り上がってますかぁー?」 マイクを持った司会者らしき人物が、フロアの中心に現れる。その後ろから若手芸人と思しき数名が表れ、突然パフォーマンスが始まった。 騒がしい程の拍手喝采が涌き起こり、フロア全体が異様な熱気に包まれる。 ……はぁ、はぁ…… こんなに煩いのに、自分の呼吸音がヤケに耳に付く。 顔を伏せ、肩で息をし、自身を抱き締め……滾る熱情を、何とか抑えようとする。 ……だけど、もう……苦しくて…… 「──ねぇ」 視線を落とした先に現れたのは、黒の革靴。立ち止まり、爪先が此方に向く。 近付いたその主が目の前でしゃがみ、見上げた僕の顔を覗き込む。 ……だけど…… 視野に映るその顔は……もう判別出来ない程にピントが合わなくて…… 「具合、悪いの?」 「……え」 二の腕を掴まれ、半ば強引に引っ張り上げられる。 「何処か落ち着ける場所に行こう。連れていってあげるよ」 クッと、持ち上がる口端。 でもそれが、親切心で微笑んだのか、悪意を露わにしたのか……判断出来る冷静さは残っていなかった。

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