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第202話

……揺れ、てる……? 一定のリズムで上下に揺さぶられる感覚。耳元で響く、布擦れの音。 身体の表面を纏うように、戻ってくる意識。ぼんやりとした微睡みの中、重い瞼を持ち上げれば─── 「……ッ、!」 驚いて、ぱちんと目を見開く。 一瞬で目が冴え、視界が一気にクリアになる。 見覚えのある天井。 スプリングが利いたベッド。 僕の顔の両側に手を付き、上から覗き込むその顔は─── 「………ハイ、ジ……?」 どう、して─── ここは、ハイジと過ごしたウイークリーマンションの部屋に、良く似ている。 天井も。ベッドも。壁紙も。設置された家具も……何もかも…… ──うそ…… 押し開かれた足の間に、ハイジの欲望が捩じ込まれ……グチュ、グチュ、と卑猥な水音を立てている。 ベッドの柵に噛ませた手錠。 逃れようと腕を動かせば、あの時と同じ痛みが走る。 「………なん、で……」 「何でって……。さくらを迎えに来たに、決まってンだろ」 「……」 返り血、……だろうか。 頬や目元辺りに、飛び散ったような血が付着している。 動いた唇の隙間から赤い舌先が現れ、持ち上げた口の片端を、ゆっくりと舐める。 ゾクッ…… 勝手に身体が、震えてしまう。 「そしたらお前、野郎に襲われそうになってっから。………アレで仕方なく、な」 黒眼だけを動かし、ハイジが僕の隣に視線を落とす。 つられて其方に視線を向ければ……そこには─── 「──!」 ドロ……… 傍らに放られた、ボルトクリッパー。 その刃先から、粘着性のある血が糸を引いて滴り、ベッドシーツを赤黒く汚す。 その向こう側──ベッド下の床に転がっている、一人の男性。 身体が捻り潰されたような、異様な姿。腰から下は向こうを向き、上体は此方に向けられ、判別不能な程に顔がぐちゃぐちゃに血塗れていて…… サァッ、と血の気が引く。 寒気が止まらないのに、妙に身体は熱く滾っていて…… 「……さくら」 僕を見下ろす、ガラス玉のような双眸。 その瞳の奥に潜むのは──熱情と憎悪。 「お前……オレの親父と寝たんだってな」 「………っ!」 酷く冷たい声──鋭く尖っていて、刃先を突き付けられたよう。 ズンッ、と腹の奥に楔を打ち込まれ、容赦なくナカを抉られる。快楽を与えるというより、痛めつける為の暴力行為。 「まさか、オレの為だとか言うんじゃねぇよな…… ……オレが何の為に、お前を手放したと思ってンだよ……!」 ハイジの片手が、僕の首に掛かる。 絞め上げてる訳じゃない……のに…… 「………、っ」 僅かながら唇を開く。 けど……そこから、中々声が出てくれなくて……

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