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第200話
……揺れ、てる……?
一定のリズムで上下に揺らされる感覚。耳元で布の擦れる音。
何となく、意識が戻ってくる。
ぼんやりとした微睡みの中、重い瞼を持ち上げれば──
「……え……!」
驚いて目を見開いた。
一瞬で目が冴え、その視界が一気にクリアに変わる。
見覚えのある天井。
スプリングが利いたベッド。
僕の顔の両側に手を付き、上から覗き込むその顔は──
「………ハイ、ジ」
どう、して───
ここは、ハイジと過ごしたウイークリーマンションの部屋に、似ている。
天井も。ベッドも。壁紙も。設置された家具も……何もかも……
──うそ……
割られた足の間に、ハイジの欲望が捩じ込まれ……グチュ、グチュ、と卑猥な水音を立てている。
ベッド柵に噛ませた手錠。
逃れようと腕を動かせば、あの時と同じ痛みが走る。
「………なん、で……」
「何でって……、さくらを迎えに来たに決まってンだろ」
「……」
返り血、だろうか。
頬と目元辺りに、飛び散ったような血が付着している。
動いた唇の間から赤い舌先が現れ、持ち上げた口の片端を、ゆっくりと舐めた。
ゾクッ……
勝手に震える、身体。
「……そしたらお前、野郎に襲われそうになってっから。………アレで仕方なく、な」
黒目だけを動かし、ハイジが僕の隣に視線を落とす。
つられて其方に視線を向ければ……
……そこには……
「──!」
ドロ………
傍らに放られた、ボルトクリッパー。
その刃先から、粘着性のある血が糸を引いて滴り、ベッドシーツを赤黒く汚す。
その向こう……ベッド下の床に転がるのは、一人の男性。
身体が、捩れて……る……?
腰から下は向こう側を向いているのに、腰から上は此方に向けられ……
顔は、判別不能な程に、グチャグチャに血塗れていて──
サァッと血の気が引く。
寒気が止まらないのに、妙に身体は熱く滾って……
「……さくら」
僕を見下ろす、ガラス玉の双眸。
その瞳の奥に潜むのは──熱情と憎悪。
「お前……オレの親父と寝たんだってな」
「………っ!」
冷たい声──鋭く尖っていて、刃先を突き付けられたよう。
ズンッ、と楔を打ち込まれ、ナカが抉られる。快楽を与えるというより、痛めつける暴力行為。
「まさか、オレの為だとか言うんじゃねぇよな……
……オレが何の為に、お前を手放したと思ってンだよ……」
ハイジの片手が、僕の首に掛かる。
絞め上げてる訳じゃない……のに……
「………、っ」
少しだけ唇を開く。
けど……そこから、中々声が出てくれなくて……
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