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第202話
ペットボトルを持つ手の先には、心配した表情を浮かべる菊地の顔が。
「……え」
「これ、飲めるか……?」
「………」
上体を起こしながら、ペットボトルを受け取る。
ここは──いつものラブホテル。
いつもの、ベッドの上。
ハイジも、ボルトクリッパーも、ベッド下に転がる男の遺体も……ない。
──今までのは、夢……?
まだボーッとする、頭。
身体の芯に残る、熱。
疼く、下半身。
「……もう少しすれば、薬が抜ける。
それまで堪えられそうか……?」
ベッド端に腰をかけた菊地が、不安げな顔のまま意地悪な事を言う。
……いつもは直ぐ手を出してくるのに……
どうして……
切なく菊地を見れば、僕から完全に顔を逸らしてしまった。
「……初めてここに来た時のお前、……痛々しかったな」
顔を見せないまま、僕に話し掛ける。
その背中に手を伸ばしたかったけれど、縋らずに堪える。
「手に拘束された痕と、首輪の下に絞められた痕があって……ガリガリに痩せ細っててよ……」
「……」
菊地が少しだけ振り返るものの、依然として顔は見えない。
見えないからこそ、不安になる。
……どうして、僕に触れてくれないの……?
「その首輪は、SMクラブの奴隷の証だって、知ってるか?
……最初はお前が、そういう変態趣向野郎だと思ったが………」
「……」
「そんな人間が、……あんな顔はしねぇ」
……ギシッ
両手を後ろにつけば、僅かに軋んだ音がする。
「大方、SMクラブに売り飛ばされて、客から酷い目に遭わされたんだろう。……そう解釈していた。
──けど、そうじゃなかったんだな」
菊地が振り返り、手を伸ばす。
しかしその手は、持っていたペットボトルを摑んだだけで、僕には一切触れようとはしない。
「………何で高次の為に、俺の所に来たんだ」
未開封のそれを捩り開け、僕に差し戻す。
菊地の顔を伺いながら、おずおずと手を伸ばした。
……何か、誤解……してる……?
それとも、……責めてる……?
「……」
受け取ったミネラルウォーターを、少しだけ口に含む。
備え付けの冷蔵庫に入っていたものなんだろう……目が冴える程に、キンキンに冷えている。
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