205 / 558
第205話
何処からどう、話していいのか解らない……
だけどきっと、大体の事はもう……解ってる筈……
僕がハイジの元恋人だったって事も。
この首輪を付けたのが、ハイジだって事も。
「……僕が、ハイジにできる事は……
それしか、無かった……から……」
潤った喉が、直ぐに渇いていく。
もう一度ペットボトルに口を付けるものの、欲しいのはこれじゃないと身体が訴える。
「──どういう事だ」
「ハイジは、僕と……一緒になりたがってた、けど……
……それは無理、で……
でも、……ハイジが猟奇的に、なってしまったのは……僕の、せい……だから……」
……はぁ、はぁ……
起き上がっているのも辛くて。ペットボトルの蓋を締め、とさっ…と横になる。
中々抜けてくれない媚薬。
……辛い……
触って、欲しい……
欲し、い……
「僕が、あの日……海で……
……ナンパなんか、されなかった……ら……
ハイジは……あんな風に、人を………血が……ぐちゃぐちゃ、で……
傷付い、て……それで……弱みを……
……辻田……の犬……に、なん……て……」
途中から……何を喋ってるのか、自分でもよく解らなくなってくる……
頭が、口が、……上手く回らない。
追い付いていかない……
ただ、苦しくて。
抱き締めて、温もりに触れたい……
僕を、満たして欲しい……
「………そうか。そういう事か……」
独りごち、考え込む仕草をした菊地が携帯を取り出す。
「さくら……」
何処かへ電話を掛けたのだろう。耳に当て、反対の手を僕の方へと伸ばす。
そっと前髪に触れる指先。そのまま髪を絡めて梳き、火照った頬を優しく撫でる。
擽ったくて、ゾクゾクする……
「……クスリが抜けたら、いっぱい可愛がってやるからな」
そう言って、菊地が切なげに微笑む。優しい声色で。
ズルい。欲しいのは、今なのに………
「………ゃ、欲し……」
「悪ぃな……あの薬は、ただの媚薬じゃねぇんだ。
……何処で作られたか解んねぇ、合成麻薬が含まれている」
───麻薬……?
「エクスタシーって聞いた事ねぇか?
ラブ・ドラッグ、MDMAとも呼ばれる合成麻薬だ。……そいつでセックスすると、最高に飛ぶらしい。
一度その快感を知ったら、病み付きになって……抜け出せなくなるそうだ」
……そんな、ものを……
何で……樫井秀孝が………?
ゾクッと身体が震える。
「お前の足に付いてたシール。あれは、シートタイプの注射器だ。
肉眼では見えねぇ程細くて小さな針が、剣山のように無数にあって……貼るだけで誰でも簡単に痛みも無く打てるらしい。
……しかもその針は、体内で溶けて痕も残らねぇ。
セックス中に非合意で使えるとあって、裏で高額取引されている。
……学生でも買えるような、安価で粗悪な合成麻薬を、だ」
ギッ……
ベッドの軋む音と共に、菊地が立ち上がる。
「……安心しろ。お前をヤク中にはさせねぇから」
そう言った後、菊地は電話の相手と話しながら、バスルームの方へと消えていった。
ともだちにシェアしよう!

