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第203話
何処からどう、話していいのか解らない……
だけどきっと、大体の事はもう……解ってる筈……
僕がハイジの元恋人だったって事も。
この首輪を付けたのが、ハイジだって事も。
「……僕が、ハイジにできる事は……
それしか、無かった……から……」
潤った喉が、直ぐに渇いていく。
もう一度ペットボトルに口を付けるものの、欲しいのはこれじゃないと……身体が訴える。
「──どういう事だ」
「ハイジは、僕と……一緒になりたがってた、けど……
……それは無理、で……
でも、……ハイジが猟奇的に、なってしまったのは……僕の、せい……だから……」
……はぁ、はぁ……
起き上がっているのも辛くて、ペットボトルを持ったまま、とさっと横になった。
中々抜けない媚薬。
……辛い……
触って、欲しい……
欲し、い……
「僕が、あの日……
……ナンパなんか、されなかった……ら……
ハイジは……あんな風に、人を………血が……ぐちゃぐちゃ、で……
傷付い、て……それで……弱みを……
……辻田の犬……になんて……」
途中から……何を喋ってるのか、自分でもよく解らなくなってくる……
頭が、口が、上手く回らない。
追い付いていかない……
ただ苦しくて
抱き締めて、温もりに触れたい……
僕を、満たして欲しい……
「……そうか。そういう事か……」
独りごち、考え込む仕草をした菊地が、携帯を取り出す。
「さくら……」
何処かへ電話を掛けたのだろう。耳に当て、反対の手を僕へと伸ばす。
そっと触れる前髪。
そのまま指先を絡めて梳き、火照った頬を優しく撫でる。
擽ったくて、ゾクゾクする……
「……クスリが抜けたら、いっぱい可愛がってやるからな」
切なげに微笑む。
優しい声色で。
──ズルい。欲しいのは、今なのに……
「……や、……欲し……」
「悪ぃな。……あの薬は、ただの媚薬じゃねぇんだ。
……何処で作られたか解んねぇ、合成麻薬が含まれている」
───麻薬。
「エクスタシーって聞いた事ねぇか?
ラブ・ドラッグ、MDMAとも呼ばれる合成麻薬だ。……そいつでセックスすると、最高に飛ぶらしい。
一度その快感を知ったら、病み付きになって……抜け出せなくなるそうだ」
……そんな、ものを
何で……樫井秀孝が………?
ゾクッと身体が震える。
「お前の足に付いてたシール。
……あれは、シート型の注射器だ。見えねぇ程細くて小さな針が中央に無数にあって、貼るだけで誰でも簡単に痛みも無く打てるらしい。
……しかも、痕も残らねぇ。
セックス中に非合意で使えるとあって、裏で高額で取引されている。
……学生でも買えるような、安価で粗悪な合成麻薬を、だ」
ギッ……
ベッドの軋む音と共に、菊地が立ち上がる。
「……安心しろ。お前を、ヤク中にはさせねぇから」
そう言った後、菊地は電話の相手と話しながら、バスルームへと消えていった。
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