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第204話

麻薬…… だから、幻覚を──? 菊地が僕の手を離して、倫に色目を使ったのも。 男に声を掛けられたのも。 ハイジに捕らえられて、犯されながら心中を計られそうになったのも…… 夢じゃなく……全部、幻覚…… 冷たいペットボトルをギュッと握る。 せめてこの手に伝わる温度だけは、現実であって欲しい。 「………」 パーティー会場で会った、樫井秀孝がふと頭を過る。 吐息から香った、甘い匂い──あれはお酒の匂いだとばかり思っていたけど…… もしかして……吸引した麻薬の残り香、だったの──? 思い返してみれば、まるで廃人──キラキラとしたオーラは無く、頬は痩せこけ、虚ろな瞳の色をしていた。 アゲハの所在を知っているような口振りだったけど…… それも全部、樫井の妄想……幻覚だったって事……? ゾクッと身体が震える。 何かの物質が脳内に溢れて、一気に過剰反応する。それは、人間がダメになってしまう程の破壊力で…… たった一回でも依存して、破滅の道に誘って嵌まり込んでしまうなんて、思いたくない。 こんな辛い思いは、二度と味わいたくない…… ……はぁ、はぁ……

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