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第205話 事件の真相

××× 物音がした。 小さく、コトッていう音。 指先が、僕の前髪を遠慮がちに掻き分け、額にそっと触れる。 優しくて、温かい…… 「……さくら」 「……」 「よく耐えたな」 微かな声。 瞼から、蛍光灯ではない光を感じる。 ……もう、朝……? いつの間に、眠ってしまったんだろう…… あれから何度か、幻覚を見た。 このベッドの傍らに立ち、冷徹な瞳で眠る僕を見下ろす、全裸の若葉。 無表情のまま僕の上に跨ぎ、暗闇の中、振り上げたバタフライナイフの刃先が鋭く光り── ──麻薬の幻覚が、こんなに辛いとは思わなかった。 巷でよく聞くのはアッパー系。気持ちが昂って、最高に幸せな気分になれるっていうもの。 もう一つはダウナー系で、逆に気分を落ち着かせるもの。 大麻を栽培してた部屋で、ハイジが簡単に教えてくれた知識だけど。 僕のは媚薬入りだったから、アッパー系なんだろう。 でもMDMAは、安価な分粗悪品が多いとか──朧気な記憶の中、確か菊地がそう言ってた。何が混ざってるか解らないって。 だから僕に使われたものは、初めてでもバッドトリップする程の、相当な粗悪品だったのかもしれない。 ……でも、それで良かった。 もう二度と、味わいたくないから。 額から頬へと、流れるように滑らせた指先が、離れていく。 「……ゆっくり寝てろよ」 ギシ…… ベッドが軋み、頬に熱いものが軽く当たる。 それが唇だと気付くまで、そんなに時間は掛からなかった。 起きてそれに答えたかった。……けど、まだ身体が酷く怠くて。 眠気も手伝って、僕は再び深い眠りへと落ちていった。 体に掛かったケットを外され、籠もった熱気が解放される。 少し、肌寒い。 ぶるっと背筋が震える。身体を横向きにして小さく丸まれば、いきなりショートパンツに手が掛けられた。 「……っ、!」 そのままズリッと一気に脱がされ、パチンと目を開ける。 「あ……おはよう、工藤!」 目の前にいたのは……五十嵐。 相変わらず、爽やかながら暑苦しい笑顔を振り撒いてくる。 ……何で……コイツがここに…… 「起きたのなら、自分で脱げるよな。ソレ、汚れてて気持ち悪いだろ?……ほら、着替え」 「……」 ベッド端に置かれたビニール袋から、新品のボクサーパンツを取り出す。コンビニで買ってきたんだろうか。 膝辺りまで下ろされたショートパンツも下着も、しっとりと濡れて確かに気持ち悪い。 「……ああ、待って。タオル持ってくるよ」 「──いい。シャワー浴びるから」 身体を起こし、中途半端に脱がされたそれを脱ぎ捨てる。 アソコに指を入れて薬塗ったり、ズボンを脱がせたり……何で寝てる間にそんな事するんだよ…… 「……そ、そうか。じゃあさ……」 「これ、捨てといて」 ついでにパンツも脱ぎ、何故か落ち着きのない五十嵐に投げつけた。 ………この、変態。

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