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第206話
シャワーを浴び、昨日洗ったシャツを着た僕は、ショーパンがない事に気付いた。
剥き出しの太腿。
裾を片手でぐっと下げ、できるだけ下着が見えないようにして部屋へと戻る。
さっきは感情に任せ、五十嵐の目の前でパンツを脱ぎ、それを投げつけてしまったけれど……冷静になってみると、結構恥ずかしい。
備え付けの冷蔵庫の前でしゃがみ、ドアを開け放った五十嵐が、背を向けたまま僕に話し掛ける。
「昨日、さ……何があったんだよ」
「……」
遠慮がちながら無遠慮に聞いてくるのは、ほんとに相変わらず。
下着と一緒に買ってきたのであろうドリンクを、冷蔵庫のホルダーに幾つか補充し、それまで入っていた炭酸飲料を一本取り出す。
喉がカラカラだったのか。当たり前のようにぷしゅっと開けて、ゴクゴクと喉を鳴らした。
「……何か、ヘンな事……されなかったか……?」
「ヘンな事って?」
直ぐに質問返しをすれば、五十嵐がしゃがんだまま此方に顔を向けた。
「……ぅわっ、と……!」
大袈裟に驚いて、尻餅をつく。
手が滑って炭酸を服に零すとか。もう、コミカルすぎ。
「し、下……穿けって!」
「その下だけど。……何処にあるか知らない?」
「……お、俺が……知るわけないだろ」
手をばたばたとさせ、慌てた様子で真っ赤な顔を背ける。
「……」
さっき、目の前でパンツ脱いでやったのに。なんでそんな反応するんだよ。
そもそも五十嵐は、普通にノンケだった筈。
男の生足見たって、別にどうって事ないだろ。
五十嵐の背後を通り、ベッド端に腰を掛ける。
両手を後ろに付き、足をぶらぶらとさせ、そこから高みの見物をする。
──五十嵐の背中。
やけに広くて、大きい気がする。
僕と同じ中学生の筈なのに……
「……昨日、棲寝威苦 リーダーの誕生日会だったんだろ?
いつもは留守番の工藤が、菊地さんに連れてかれたからさ。
何かあったんじゃないかって……心配で。俺、ここに泊まったんだよ」
冷蔵庫をぱたんと閉め、振り返った五十嵐が真面目な顔で僕を見上げる。
「そしたら工藤、菊地さんに抱きかかえられて戻ってきて、……その、凄く、苦しそうだったから……」
五十嵐の瞳が揺れ、視線が落とされる。
「……もしかして、真木さんから貰った薬の事がバレて……
それで、酷い目に遭ったんじゃないかって……」
「……」
──そっか。
すっかり忘れてた。
その問題もまだ残ってたんだった……
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