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第210話
×××
太腿に添えられた指が、スルリと肌の上を滑る。
首を竦め、拒否せずそれを受け入れれば、耳裏にねっとりとした熱い粘膜が這った。
「……くすぐったい」
「くすぐってんだ……」
身を捩って抵抗すれば、その反応に菊地が楽しそうな声を上げる。
耳殻を食まれ、耳のラインを厭らしく舐られてるうちに……次第に心が解れ、首を少しだけ傾げて菊地に身を委ねる。
クチュ……
直ぐ近くで聞こえる、卑猥な水音。
柔く吐かれた熱い息が、耳全体を熱いベールのように包み込む。
五十嵐が出て行ってからベッドに横たわった僕は、そのまま眠ってしまったらしい。
それまで、色んな事を考えていた。
ハイジの事。樫井秀孝の事。深沢の事。そして、コンクリ事件の事……
そんな夢さえ見た僕の太腿を、帰ってきた菊地がつぅ、と撫でて。
身体が冷えてるからと、一緒にお風呂に入る事になったけど……
少しぬるめながら、こうして湯船の中で身体を密着させるのは……やっぱり恥ずかしい。
「言っただろ。……クスリが抜けたら、可愛がってやるって」
「………んっ、」
太腿を撫でる手とは反対の手が、僕のウエストラインを擦り上げ、平たい胸を柔く揉んだ後、乳首をきゅっと摘まむ。
腰の後ろ辺りに感じる、菊地の硬くなった怒張。それがビクン…と反応し、存在をアピールする。
「……やっ、」
「嫌か?」
「ん……」
手を重ねて菊地の横行をやんわり阻止すれば、動きを止め、残念そうに溜め息と共に手を離す。
「お前の欲しがった顔、また見たかったんだけどな」
「……」
一体、どんな顔だったんだろう。
恥ずかしくなって、折り畳んだ膝を抱えたまま背中を丸めて縮こまる。それを追い掛け、菊地が上体を起こせば、浴槽の水面が大きく揺れた。
「お前、昨日の事は何処まで憶えてんだ」
「……」
指に引っ掛けた首輪を持ち上げ、剥き出しになった僕の項に、ふっと息を吹き掛ける。そこに顔を埋め、菊地の熱い舌が悪戯っぽく這う。
ピクンッ、と反応を示せば、菊地の指が楽しそうにそこをなぞる。
「深沢に会ったのは、憶えてるか?」
「……、ん」
全身白で固め、サイボーグのような見た目のvaɪpər リーダー。
ふと思い出されたのは──菊地との対話。カラコンの下に隠れた、猟奇的で尖った瞳。
「前に話したよな。深沢の事」
「………うん。少年院を出所した日に、倫さんと一緒に迎えに来た人……って……」
「ああ、そうか。……そういや、それしか話してなかったな」
菊地が仰け反って、浴槽の縁に腕を掛ける。
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