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第211話
「深沢 とは、ガキの頃からの仲だ。幼なじみとか、腐れ縁とか……まぁ、そんな類のやつだ。
……俺らが中学生 の頃は、今とは違ってイキがった悪ガキ共が街に蔓延ってた時代でさ。色んな派閥があってな。ガン飛ばしては殴り合いの喧嘩ばっかでよ……」
何処か懐かしむような声色。
今とは違うその時代に、遠い世界の出来事を聞いているかのような錯覚に陥る。
「俺らが高校生になった頃。当時弱小だったチームを、深沢と二人で乗っ取った。
──それが、vaɪpər だ」
……え……
チームを、乗っ取る……?
考えても見なかった科白に、驚く。
「そのvaɪpərも、喧嘩 重ねる毎にデカくなって。一年も経たねぇうちに、その界隈じゃ知らねぇ奴なんていねぇほど、有名な存在 に成り上がったんだぜ」
菊地の声が、少しだけ得意げなものに変わる。
「その頭 張ってたのが──俺だ。
顔じゃあ深沢 に負けるが、拳では俺の方が上だったからな」
……そんな事、ない……
振り返って菊地を見上げれば、それを感じ取ったんだろう。僕を見つめる菊地の目元や口元が、僅かに緩む。
「まぁ……兎に角、だ。
俺は拳ひとつで相手を捩じ伏せて、チームを牽引してきたんだよ」
「……」
そう言った菊地の片手が僕の頬に触れ、愛おしげに包み込む。
この手が、沢山の人を暴力で抑えつけて、従えてきたなんて……そう思うものの、不思議と怖さは感じない。
「当然、俺の方針に不満を持つ奴らがいてな。
──ソイツが、密かに付き合ってた俺の女に手ぇ出してきやがったんだ」
僕を見つめながらも、何処か遠くを見ていた菊地の目が、ナイフのように鋭く尖る。
とある日の夜──
女友達に呼び出され家を出た菊地の彼女は、その友達に連れられ小さな公園に行った。しかし、そこに屯していた見知らぬ男性数人に絡まれ、取り囲まれた挙げ句──レイプ。
柄の悪いその男達は、菊地の彼女を呼び出した女友達の知り合いで、予め彼女をレイブするよう指示し、公園に待機させていたという。
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