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第213話
『お前には、償う罪なんてなかったろ』──深沢の言葉が思い出される。
……つまり、仲間に……深沢に、裏切られた……って事………?
「……ガッカリしたか?」
力無く漏れる声。
身体を預けながら菊地を見上げれば、弱々しく微笑んでいて……いつもの強いオーラが感じられず、何だか小さく見えた。
「良かった。……そこまで残忍な人じゃなかったんだって、解って」
静かに首を横に振りながらそう答えれば、菊地の目が少しだけ見開かれる。
……だって……あんな酷いやり方で、人を一人、殺めてなどいなかったから。
それに………
「……ハイジは、あなたの残虐性が自分の中にもあるって……凄く苦しんでいたから。
その事実を知ったらきっと、少しは救われると思っ──」
「……、ッ」
言い終わるか終わらないかのうちに、菊地の顔が迫り、僕の唇を塞ぐ。
何度も角度を変え、唇を食み、強引に差し込んだ舌を、僕の舌に絡ませ……
クチュ……、チュクッ……
厭らしい音を立てながら、菊地に強く舌を吸い上げられる。
苦しくて、苦しくて。菊地の胸元を軽く押し返せば……その唇が、柔く離れて……
鼻先で交差する、熱い吐息。
「………こういう時は、他の野郎 の名前なんか出すな」
「……」
「それに……俺の事は、『寛司』って呼べ」
間近で僕を捉える、尖った双眸。
柔く開かれ、熱く潤みながら──それでも僅かに憂いを孕んでいて……
知ってる……これ……
……ハイジがよく僕に見せていた……嫉妬した時と、同じ眼───
───ドクンッ、
瞬間──その眼が、ハイジのそれと重なる。
邪鬼を孕み、鋭く尖ったガラス玉の眼。それに一睨されれば、心臓を鷲づかみにされ……身体が勝手に竦み上がってしまう。
「……」
瞳が、小刻みに揺れる。
指先の感覚が無くなり、呼吸も上手く出来ない。
……なのに、身体の熱が一気に上昇し……頭はじりじりと痺れて、真っ白になって……
こんな時、どう答えればいい?
……どうしたら、いいんだろう……
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