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第211話

『お前には、償う罪なんてなかったろ』 深沢の言葉を思い出す。 ……つまり、仲間に……深沢に、裏切られた……って事……… 「……ガッカリしたか?」 力無く微笑む菊地。 いつもの強いオーラを感じない。菊地が何だか小さく見える。 見つめたまま、僕は小さく首を横に振った。 「良かった。……そこまで残忍な人じゃなかったんだって、解って」 静かにそう答えれば、菊地の目が少しだけ見開かれる。 ……だって……あんな酷いやり方で、人を一人、殺めてなどいなかったから。 それに……… 「……ハイジは、あなたの残虐性が自分の中にもあるって……凄く苦しんでいたから…… その事実を知ったらきっと、少しは救われると思っ……」 「……、!」 言い終わらないうちに、菊地が僕に迫り、唇で口を塞ぐ。 何度も角度を変え、唇を食み、強引に差し込んだ舌を、僕の舌に絡ませ…… クチュ……チュクッ、…… 厭らしい音を立てながら、菊地に強く吸い上げられ── 苦しくて、菊地の胸元を軽く押し返せば……その唇が、柔く離れて…… 鼻先で交差する、熱い吐息。 「………こういう時は、他の野郎(おとこ)の名前なんか出すな」 「……」 「それに………俺の事は、『寛司』って呼べ」 間近で僕を捕らえる、双眸。 柔く開かれ、熱く潤みながら──それでも僅かに、憂いを孕んでいて…… 知ってる……これ…… ……ハイジがよく僕に見せていた………嫉妬した時と、同じ瞳……… ──ドクンッ 瞬間。 その瞳が、ハイジの瞳と重なる。 邪鬼を孕み鋭く尖った、ガラス玉の瞳。 それに一睨されれば、心臓を鷲づかみにされ……身体が勝手に竦み上がって…… 瞳が、小刻みに揺れる。 指先の感覚が無くなり、呼吸も上手く出来ない。 ……なのに、身体の熱が一気に上昇し……頭はじりじりと痺れて、真っ白になって…… 「……」 こんな時、どう答えればいい? どうしたら、いいんだろう……

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