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第212話

狭い浴槽の中、身体を捩って菊地へと向きを変える。 膝立ちをし、上体を起こして水面から胸元を曝け出すと、菊地……寛司の両肩に手を付き── 「………っん、」 近付けて重ねる、唇と唇。 薄く瞼を閉じれば……僕の後頭部に手が添えられ、力強く引き寄せ、唇を割って舌が差し込まれる。 ねっとりとした、熱い舌。 歯列、顎裏、頬裏、舌先、根元……と厭らしく丁寧に舐られれば、快感を無理矢理引き出されて、身体が自然と昂っていく。 もう片方の手が、煽るように僕の背中から腰へとスルリと撫で……肉付きの悪い尻の割れ目へと、中指が滑り込んで……… 「……ゃ、」 「や、じゃねぇだろ。……こんだけ煽っておいてよ──」 「……」 そう、だけど…… ……そうじゃなくて…… 押し返そうにも、できなくて…… 後戻りできずに流されて……もういっそ、このまま身を委ねてしまおうかと、諦めれば……… 「──って、誤解するぞ」 熱い瞳を残し、間近で菊地がニヤッと笑って手を止める。 「若ぇ奴なら、尚更な」 「……え……」 ……それって……まさか、ハイジの事……? 止めた手が離れる。 僕を見つめる……光りを含んだ、柔い瞳。 「そんな不安そうな顔するな。……ちゃんと全部、解ってるから。 お前がどういう気持ちで、こんな事してきたのかも、な……」 「……」 一度離れた手が、僕の頭を優しく撫でる。壊れ物にでも触れるかのように。 「安心しろ。お前が望まねぇ限り……無理矢理しねぇよ」 似てる……ハイジに…… ……だから僕は、無性に惹かれるのかな── ズキン、と胸の奥が痛む。 寛司が好き……という気持ちがまた不確かなものへと変わり、不安に揺れる。 僕が反応を返さずにいると、口元を緩めた寛司が軽い溜め息をつく。 「それとも。……ベッドで続き、するか……?」 そっと抱き寄せられ、耳元で囁かれる……悪戯っ子の声。 寛司の胸の中で、小さくこくんと頷けば、僕の髪に指を絡ませ、愛おしむようにゆっくりと梳く。 「……可愛いな、さくらは」 その声に、厭らしさや揶揄いは感じられない。 あるのは……優しさと、確かな温もり。 最初の頃こそ、酷くされた──でも、あれが寛司の本性だなんて思わない。 人を傷つけても平気な人間だなんて……思えない…… 「………今度、デートでもするか」 少し、照れた声。 「……ん……」 小さく答えれば、髪を梳く手が止まり…… 背中に回された手に力が籠められ……ギュッと抱き締められた。

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