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第215話

「……ああっ! 寛司さんじゃないっすか!」 そこから出てきたのは、想像通りのチャラい男性店員。 ツンと立たせた金髪。和モダン柄の着物風ニット。黒いネイル。 無駄に暑苦しい笑顔。グイグイ来る元気印の彼は……何処か五十嵐を彷彿とさせた。 「よぉ。ちゃんとやってるか?」 「はい! そりゃあもう、勿論っすよ!」 相当興奮してるんだろう。 投げ掛けられた言葉に目をキラキラとさせ、落ち着かない様子で寛司に拾い返す彼は──もう忠犬にしか見えない。 尻尾が付いてたら、激しくずっと左右に振っているだろう。 「……相変わらずのセンスだな」 「っすよね! これとか、超ぶっ飛んでるんっす!」 寛司が、入り口前の路面に出された服を物色する。 その傍らにピッタリと付き、腰を低くした彼が、テンションとノリだけで会話を成立させる。 「……店の名前もな。『THE FLY』って……蠅男かよ」 「ああ! 俺、超ぶっ飛んでんの好きじゃないっすか! 飛ぶって英語で『FLY』っすよね。 で、最近流行ってる店って、大概頭に『THE』が付いてる法則を発見しまして。で、『THE FLY』に変えたんっすよ! ……中々のネーミングっしょ?」 寛司の言葉に被せ、高めのテンションで捲し立てる。 「………ああ。確かにぶっ飛んでるな、お前」 「マジっすか! それ、超褒め言葉!」 少し呆れ気味の寛司にも動じず、蠅男の彼が超ポジティブな思考を貫く。 読まなすぎる空気。 砕けすぎた言葉遣い。 敬語でも何でもない。ただの軽いノリ。 ……似てると思ったけど……五十嵐にこの軽さはないか。 背を向けていた寛司が振り返る。 「……コイツに似合う服、何か無いか?」 僕の元へ戻ってきた寛司は、僕の肩に腕を回す。 さっきよりも近すぎる距離に、ドキッと心臓が跳ね上がった。 「……あ。コチラ、寛司さんのツレだったんすね」 ちゃんと認識してたんだ…… 僕がじっと見据えれば、彼は顔の半分が口ではないかという程口角を持ち上げ、真っ白な歯を見せる。 その屈託のない笑顔に、嫌な感じはしない。 と、寛司の腕に力が入り、更に引き寄せられれば身体がより密着する。 ……まるで店員の彼に、見せ付けるみたいに。 「ああ。……俺のオンナだ」

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