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第216話
チャラ男店員に続き、店内へと入る。
奥行きのある、縦に細長い店内。
入って直ぐのフロアには個性的な服がずらりと並び、その奥には、ディスプレイラックや壁に小物やアクセサリー、バック等が飾られてあった。
「……これなんか、どうっすか?」
壁際のハンガーラックに掛かる服を手にし、店員が寛司に見せる。
黒を基調とし、所々にタータンチェック柄の端布が縫い付けられた、半袖のシャツ。
右の肩甲骨辺りから左脇、右の鎖骨辺りまで、大胆にザックリと斜め下に引き裂かれ、その上下を一本の細いチェーンでジグザグに緩く縫い止めただけの、アシンメトリーで奇抜なデザイン。
チェーンの他に、大きめの安全ピンが所々に装飾されている。
僕の首輪を見て、勧めてきたんだろうか。
若干大人しめのパンク系……という印象だけど……
「……これは、このまま着るのか?」
「当然っすよ!」
服の上から僕に当てた寛司が、訝しげな表情を浮かべた。
「乳首、出ちまうな……」
ボソッと呟いた寛司に反応し、視線を下げれば、その言葉通り。左側の乳首周辺がパックリと割れていて……
「却下だ」
僕の意見も聞かず、寛司が店員に突っ返す。
……確かに。幾ら何でも、そんな大胆な服は着たくない。
「マジっすか! 超ぶっ飛んでません?」
「……飛びすぎだ」
「あー、……じゃあ。これなんかどうっすか?」
次に持ってきたのは、肩甲骨周りが空いた、スポーツタイプのタンクトップ。
黒を基調とし、胸元にはパステルブルーの大きな蝶。その蝶の羽根の周りは、螺鈿細工のようにキラキラと虹色に輝いていて……
「………これ、」
数年前の僕だったら、間違いなく選ばなかっただろう。
蝶柄を見かける度に、アゲハの事を思い出しては惨めな気分になっていたから。
「欲しい……」
……でも、今は違う。
太一らに輪姦 されて、ヤり捨てられた夜──
歓楽街で偶然見かけたのは、他のホスト達を引き連れて、大名行列をする──No.1のアゲハ。
煌びやかな美しい羽根を広げ、アンダーグラウンドの世界を優雅に舞い飛ぶ姿は……
──綺麗で、格好良くて……
一瞬でアゲハに、心惹かれ……憧れた……
今なら素直に、そう思える。
あの時のアゲハを彷彿とさせる、デザイン。
……欲しくない筈がない。
「いい感じだな」
「……うん」
僕の身体に当てた寛司が、柔らかく微笑む。
──ねぇ、アゲハ
今、何処で何をしてるの……?
また、会いたい。
会いたいよ……お兄ちゃん……
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