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第218話

「袋にする先輩達の首根っこを、片手で摑んで、簡単にこう……俺から引き剥がして。 ……こんな俺みたいな雑魚を助けてくれた寛司さんは、マジで超絶、格好良くて。 『人の夢を邪魔するような奴らは、棲寝威苦(スネイク)には要らねぇ』って。 先輩達を睨んで。一撃で黙らせちゃって。 ……もう、神々しくて。マジで神降臨っすよ」 「………」 ……そっか…… 人助けをしたのは、寛司の人柄もあるけど……もしかしたらこの店員を、ハイジと重ね合わせてしまったのかもしれない。 半年前といえば、辻田の命令でハイジがスネイクに送り込まれた頃だし、その時初めて寛司と顔を合わせてる。 当然、ハイジがどんな事をしてきたか、寛司は解ってる筈。 だからきっとハイジにも、彼のように夢を見つけて、真っ当な生き方をして欲しい、って…… そう、願っていたのかもしれない。 傾いた陽が、空を茜色に染める。 ふわりと柔らかそうな雲が、幻想的に色付く。 助手席の窓からぼんやりと外を眺めていれば、寛司がカーオーディオを弄りだした。 そこから流れる、軽快なポップミュージック。ラジオ特有の強弱する音。僅かなノイズ。 次々と変わる景色を眺めながら、ふと思い返したのは、セレクトショップでの出来事── 『……もしかしてだけどさ。……君って、姫?』 自分の事を散々語った店員が、僕の顔をマジマジと覗き込んだ後、白い歯を見せる。 『……』 『あー、やっぱ姫じゃん。 ……俺、売り子やってた時、一度タッグ組んだ事あってさ。ハイジと。 そん時に、″俺の大事な姫″って、君とのツーショット写真、見せつけられたんだよね』 『……え』 僕の反応を見た店員は、ハイジに似た色の髪をくしゃりとする。 『………そっかぁ…… あー、なんかヤベー。マジか!』 驚愕と困惑の入り混じった表情。 ハイジと寛司と僕との相関関係を、瞬時に頭に浮かべて理解したんだろう。 『あっ、でも! 寛司さんはマジで、いい人だし。俺、あの人には絶対幸せになって貰いたいんで』 『……』 『寛司さんの事、マジ宜しくお願いします』 ズシン、と重みのある言葉。 「……」 「……どうした?」 無言でいる僕に、寛司が声を掛ける。 こんな時、「疲れたのか?」じゃないのは、僕の様子から何かを察したからかもしれない。 「……楽しかったなって……思って」 「そうか」 寛司の方を見て答えれば、その頬が緩んだように見えた。 サングラスではもう隠しきれない、頬骨目の湿疹。それが、日に日に大きく広がっている。 片手ハンドルをしながら首元を掻くと、左の二の腕にある大きな湿疹を、ゴリゴリと掻き出した。

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