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第220話
山の麓を走る車が、山頂へと続く急勾配の道へと向かう。
その瞬間、アクセルが踏み込まれ、ヴォンッ…と大きなエンジン音が鳴った。
「変な薬じゃねぇぞ。……単なる痒み止めだ」
麻薬か何かの薬物だと、僕が勘違いしたと思ったらしい。
此方を一度も見る事無く、寛司が再び口を開く。
「……まぁ、飲んだ所で直ぐ効くようなものでもねぇし。あまり効いた気もしねぇから、気休めにしかならねぇけどな。……無いよりはマシだろ」
そう言って、チラリと僕を横目で見た。
続く急カーブ。
そのせいか、痒みのせいか。寛司の運転に荒々しさが見え隠れする。
あと少し上がれば、デートスポットである夜景の見える丘だ。
そこに停めて薬を飲むのかもしれない──そう、思っていた。
「悪いが、ちょっとだけ付き合ってくれ」
「……」
暫く走った後、車は山林──対向車とすれ違えない程細く、舗装されていない砂利道へと外れる。
鬱蒼と茂る木々。上空を覆い尽くす程に伸びた枝葉。その隙間から射し込む、オレンジ色の木漏れ日。
暫く進んだ所で車が停まった。端と呼べるには心細い、砂利道の上で。
サイドブレーキを引き、エンジンが切られる。
シートベルトを外し、ドリンクホルダーにあるペットボトルを摑んだ寛司が、僕の手から薬を奪った。
「──ああ、これか」
小包されたそれをじっと見つめる。
数秒の間が空いた後──薬を口に含み、ミネラルウォーターで飲み下すと、ゴミ箱に捨てた。
「……桜井ってのは、旧姓だ」
「……」
サワサワサワ……
時折聞こえる、木の葉の擦れる音。
その度に、僅かにしか届かない夕日の木漏れ日を、木の葉が無作為に掠め取ってしまう。
仄暗い車内──
寛司の辺りだけチラチラと小さな光が射し、その度に浮き上がって見えるのは、鋭く尖った瞳。
「凶悪犯が出所後に改名するのは、そう珍しくないだろ」
「……」
「……さくら」
寛司の片手が伸び、僕の首元に手を掛け、半ば強引に引き寄せる。
と同時に、瞼を薄く閉じた寛司が迫ってきて──
「……!」
重なる、唇と唇。
舐め取られ、噛み付くように……上下の唇を何度も何度も貪られる。
「………悪い、」
一度離れた唇から、熱くて荒い息が漏れる。
「もう、痒くて痒くて……気が狂いそうだ……」
そう小さく呻いた寛司が、僕の手首を掴んで引っ張り、布越しに自身のモノを触れさせた。
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