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第226話

寛司の言葉に、僕の心のド真ん中を打ち抜かれる。 瞬間──何かが弾かれ、込み上げ、殻を突き破って、色んな想いが溢れ出てきて…… 「………ぼくも、…すき……」 寛司の耳元に寄せた唇から、小さな声が吐息と共に零れ落ちる。 その声が外耳から脳内に響いて、自分でも驚く。 ……そっか。 僕、寛司の事……好き、だったんだ…… 複雑に絡み合っていた糸が、スッと解ける。 今まで、何で……気付けなかったんだろう…… 急に視界が開け、眩い程の光に目が眩んだ気がした。 「好きだよ……寛司……」 瞳の奥から熱いものが溢れ、零れ落ち、寛司の肩口を濡らす。 「……さくら」 僕の身体をギュッと抱き締め、寛司が堪えるような安堵のような息を、ゆっくりと吐く。 重なる心音。重なる呼吸音。 心地良い温もりの中で、僕は寛司という居場所を見つけた。 もう、離したくない…… 僕の顔を覗き込む、寛司の瞳。 瞼が薄く閉じ、そっと寄せられた唇が、濡れた頬を優しく拭う。 「やっぱ、可愛いな……お前」 嬉しそうな顔。少し、照れてる……? 「素直で、純粋で……」 言いながら、寛司が僕の横髪を搔き上げる。 手のひらの温もりを感じながら、寛司を見つめた。 「……素直、なんかじゃ」 性悪で、捻くれて。 こんなに性格悪いのに……? 「素直だよ。……三歳の子供(ガキ)みてぇにな」 「……ばか」 「はは。それぐらい、純粋だって意味だ」 寛司が目を細めて笑う。 「前にも言ったが。こんなアンダーグラウンドな世界にいて、汚れてねぇのが不思議なぐらいだ」 「………そんな事、ない……」 もう充分、汚れてる…… 僕は……僕のせいで、色んな人を傷つけてきたし、人生まで狂わせてしまった。 それにこの身体だって、もう、充分に汚れきってる…… 「………いや。綺麗だよ」 僕の悲観的な心情を切り裂くように、寛司がハッキリと口にする。 「……え」 「もっと自信持てって、言ったろ?」 優しい囁き。 その唇が迫り、僕の唇をそっと塞ぐ。 それでも。 別に、不安が消える訳じゃない。 まだ自信もない。 ……こうして愛される事にも、まだ慣れてない。 『綺麗だよ』──脳内でリフレインする、寛司の声。 ……許されない気がする。 僕が歩んできた人生も、僕自身も。 僕が望む幸せは、いつも手中をすり抜け……硝子細工の様に、壊れてしまうから── 「………うん」 寛司の身体をギュッと抱き、そっと目を閉じれば、まだ残っていた涙が一筋零れ、二人の間に落ちた。

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