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第227話 *
×××
木の葉の擦れる音。上空を吹き荒らして唸る音。
それらが、先程まで淫らな音を響かせていた狭い空間にまで届く。
心地良い疲労感と倦怠感。満たされた身体を寛司に預け、抱き合ったままもうどれ位経っただろう。
背中に回された手。心地良い温もり。
ずっと、こうしていたい……できるなら、このまま眠るまで……ずっと……
「……さくら」
微睡んだ空気を、寛司の声が払拭する。
「寒くないか?」
寛司の優しい声。僕の背中に触れる左手のひらが熱い。
「……うん」
答えながら、寛司の肩口に額を擦り寄せる。
温かくて気持ちいいこの場所は、まるで陽だまり。
重なる肌と肌。胸と胸。身体が無重力状態になって、ふわふわと雲のように浮かんでいるみたい。
「……ありがとな。こんな、俺の傍にいてくれて」
「……」
「変わらず、慕っててくれてよ」
僕の後頭部を右手で包み、ギュッと強く抱き締める。それは心地良い締め付けで、とても安心する。
トク、トク、トク、……
寛司の心音。少しだけ早いリズムを刻み、僕のと重なり合って混じり合う。
……このまま、ひとつに溶け合ってしまいたい。
そしたらずっと、寛司と永遠に、一緒……
瞼を軽く閉じ、気怠い身体全てを寛司に預ける。
……そういえば。
昔、同じ事を思った事がある。
あの時は、寛司ではない違う温もりだったけれど……
思い出すだけで、胸の奥がギュッと締め付けられる。
ぽっかりと空いてしまった穴を、寛司で埋めて。今はこんなにも、満たされてるというのに……
「──薬の袋にあった、『桜井』って名前だけどな……」
唐突に。先程はぐらかした話題を、寛司が持ち出す。僕の後ろ髪を梳く手が止まり、物思いに耽ったような声で。
「俺は一時期、……その桜井ってヤクザの戸籍に入ってたんだよ」
「……」
……やっぱり。
別段驚いたりはしない。
だけど、胸中に嫌なものが滲み広がっていく。
袋に名前を見つけた時、全く想像していなかった訳じゃない。
でも、いざそれが明確になってしまえば、それに付随する不確かなものまで、一気に現実味を帯びてしまう。
以前、真木が言ってた──本当のスネイクリーダーは、寛司だって事も。
「俺の家は、最初から母子家庭でさ……」
「……」
小さな吐息。チラリと僕を見る瞳。
優しい笑みを浮かべてはいるものの、その奥深くに、憂いと哀しみを帯びた色が見えた。
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