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第230話

アトピーが幾らかマシになった中学生の頃──寛司は、深沢と組んで喧嘩に明け暮れていた。 それまで『気持ち悪い』と、陰口を叩いていた奴らを片っ端からぶちのめし、気に入らない奴らも力ずくで捩じ伏せ、拳を血で染めていった。 その際に出るドーパミンが、思いも寄らずアトピーの痒みを抑えてくれた。ハクが付くと言い訳しながら、止められないその衝動に身を任せていた。 「……まぁ、そんな時だ。 俺を補導した婦人警官がな、俺の生徒手帳を見るなり驚いた顔をしてさ。 んでいきなり、凄い剣幕で説教してきたんだよ」 どんな親でも…子供を思わない親なんていないわ── 通報を受け、祥子のアパートに乗り込んだ婦人警官は、異様な光景を目の当たりにし、言葉を失った。 こんな事が、現実に起こりうるのか、と。 母子を切り離しての、入院。 痩せ細り、酷いアトピーの寛司は、点滴を打ち全身に薬を塗って包帯で巻かれた。その後退院し、一時保護所へ入所。 祥子は精神科病棟から退院後、アパートに戻り保護観察の身となった。 その入院中から暫く、祥子の元を個人的に訪れていた婦人警官は、話を聞くなどして、彼女の心の拠り所となっていた。 「……でも、んな事聞かされてもな。 あのお袋からは、全く想像出来なかったぜ。 幾らノイローゼになったからって言っても、惚れた男に溺れて、子供を放任していい理由にはならねぇ。 母親なら母親らしく。子供を産んだなら、最後まで責任を持って育てるもんだろ、ってな」 「……」 確かに……そうだ。 もし誰かから突然、僕の記憶がない程小さかった頃、母から愛情を持って育てられていたって聞かされても、信じられない。 だったらどうして……あんな酷い仕打ちを、何度も何度もしてきたんだって……疑いたくなる。 寛司を見上げて、瞳を覗き込む。 そうすれば、寛司の手が僕の後頭部を優しく撫でた。 「……例の事件で捕まってから、俺に子供がいると知った。 そん時からだな。……婦人警官に言われた言葉が、妙に頭にこびり付いてよ。 お袋の事も含め、親ってもんを色々考えるようになった──」

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