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第233話
そんなある日──面会に、桜井が現れた。
その当時。まだ太田組幹部では無かった桜井は、利用価値のあるvaɪpər に目を付け、その頭を張っていたのが自分の息子だと知り会いに来たのだ。
vaɪpərを手中に収めたい桜井は、寛司の逮捕後、自分の身内を新リーダーにのし上がらせようとした。
しかし、リーダー格不在の組織内は混沌とし、既に幾つかのグループに分裂。それぞれのチームには、既にリーダーが存在していた。
それをまたひとつに束ねるには、それなりに力のある者が必要だった。
「……で、俺を欲しがったって訳だ。
偶然にも各チームのリーダーは、俺を慕ってた奴等だったからな。
お飾りとして奴の身内を新リーダーの座に置き、ネンショーにいながら俺が指揮する。……つまり桜井は、俺を利用してvaɪpərを思い通りに動かし、ヤクザ社会で出世しようと企んでいたんだ」
「……」
「その契約の証として、奴の戸籍に入るよう要求された。
もし断れば、高次を自分の元に引き取りヤクザとして育てる……って、脅しをかけてな」
「……」
……あの時と同じだ。
僕を助ける為に、アゲハが身代わりになって、ホストになった時と……
僕の髪を撫でる手が止まる。
鼻から抜ける、大きな溜め息をついた後、その手が僕の背中に回り、キュッと抱きしめる。
「どんな親でも、子供を思わない親なんていねぇ──俺は迷わず、奴と契約を交わした。
勿論、ただで利用された訳じゃねぇ……」
寛司が桜井に突き付けた条件。
それは、寛司が大切に思ってる人を、マスコミ等の餌食から保護する事。
対象は──ハイジ。当時の彼女とその家族。深沢の家族。
そして───祥子。
「……えっ」
思わず、驚いた声が漏れる。
どうして……
お母さんの事、許せたって事……?
受け入れられたって、事……?
……どうして……
「あんなお袋でも、己の人生投げ打ってまで、俺を守って愛してくれてた時期が、僅かでもあったんだ。
放任されてたのは許せねぇが……それまで否定しちゃいけねぇんじゃねぇかって、思えるようになったんだよ。そしたら、少しは受け入れられるようになった……ってだけだ」
「……」
うまく言葉が、出ない。
何て言っていいか……解らなくて。
だって。もし僕だったら……そこまで受け入れられない。
僕を憎んで、殺そうとまでした母が……物心つく前までは愛してくれていたんだよ、と聞かされても……
僕は、信じないし……受け入れたくない。
そんな僕の心情を察したのか。
僕の頭をポンポンとした寛司が、優しく微笑む。
──まるで我が子を愛する、父親のような瞳で。
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