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第231話

そんなある日──面会に、桜井が現れた。 その当時まだ太田組幹部では無かった桜井は、利用価値のあるスネイクに目を付け、その頭を張っていたのが自分の息子だったと知り、会いに来たのだ。 スネイクを手中に収めたい桜井は、寛司の逮捕後、自分の身内を新リーダーにのし上がらせようとした。 しかし、リーダー格不在の組織内は混沌とし、既に幾つかのグループに分裂。それぞれにリーダーが存在していた。 それをまたひとつに纏めるには、それなりに力のある者が必要だった。 「で、俺を欲しがったって訳だ。 偶然にも、それぞれのリーダーは俺を慕ってた奴等だったからな。 お飾りとして奴の身内を新リーダーの座に置き、ネンショーにいながら俺が指揮する。 その俺を利用し、桜井がスネイクを思い通りに動かす。 ……その契約として、奴の戸籍に入るよう要求された。 もし断れば、高次を自分の元に引き取って、ヤクザとして育てる……って、脅しをかけてな」 「………」 あの時と同じだ…… 僕を助ける為に、アゲハが身代わりになって、ホストになったのと…… 僕の髪を撫でる手が止まる。 鼻から抜ける、大きな溜め息をついた後、その手が僕の背中に回り、キュッと抱きしめる。 「どんな親でも…子供を思わない親なんていねぇ──俺は迷わず、奴と契約を交わした。 勿論、ただで利用された訳じゃねぇ……」 寛司が桜井に突き付けた条件。 それは、寛司が大切に思う人を、マスコミ等の餌食から保護する事。 対象は──ハイジ。当時の彼女とその家族。深沢の家族。 そして……祥子。 「……えっ」 思わず、驚いた声が漏れる。 どうして…… お母さんの事、許せたって事……? 受け入れられたって、事……? ……どうして…… 「あんなお袋でも、己の人生投げ打ってまで俺を守って、愛してくれた時期は僅かでもあった。 放任されてたのは許せねぇが……それまで否定しちゃいけねぇんじゃねぇかって思えるようになったんだ。 そしたら、少しは受け入れられるようになった……ってだけだ」 「……」 うまく言葉が、出ない。 何て言っていいか……解らなくて。 だって、もし僕だったら……そこまで受け入れられない。 僕を憎んで、殺そうとまでした母が……もし僕の記憶のない頃には愛してくれていた、と解っても…… 僕は、信じないし……受け入れたくない。 そんな僕の心情を察したのか。 僕の頭をポンポンとした寛司が、優しく微笑んだ。 ──自分の子供を愛する、父親のような瞳で。

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