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第232話 ピアス

××× 対向車のヘッドライトや街灯りが、運転する寛司の顔を照らしては通り過ぎていく。 その度に浮かび上がる、左目の下の大きなガーゼ。 初めて寛司と出会った時よりも範囲が広がった湿疹は、もうサングラスだけでは誤魔化しきれない。 ノースリーブから出た二の腕には、グルグルに巻かれた包帯。痒み止めの軟膏は塗っているものの、蒸れて痒いんだろう。時折包帯部分を鷲摑んでは(つね)り、深爪を食い込ませている。 「……もう直ぐ着くぞ」 「うん……」 寛司の言葉を受け、少しだけ声が堅くなる。緊張してると思ったのか。寛司がチラリと僕を横目で見た。 「……いらっしゃいませ」 店に入ると、カウンターにいた倫が軽く頭を下げる。 相変わらず所作に品があり、その立ち振る舞いや微笑んだ表情からは、大人の色気が漂う。 「元気そうね……って言いたい所だけど。どうしたの、そのガーゼ」 「例のヤツだ。気にするな」 「……ふぅん、そういう事ね」 カウンター越しに寛司が答えれば、倫は真っ直ぐに寛司だけを見つめていた。 パーティー会場での事もあるせいか。その視線は、まだ何処か未練がましいようにも感じる。 「──だったらまた、食べに来てよ……」 薄い唇の端が小さくクッと上がる。 首を少し傾げ、細くて長い首筋を曝し、 長い睫毛を下瞼に影を落とせば、しっとりと憂いのある表情を寛司に見せる。 それはまるで、最愛の夫を失った未亡人の如く、哀愁漂う妙な色艶。 「……悪ぃな」 寛司の手が僕の肩を摑み、強引に引き寄せられる。 「コイツの嫌がる事は、しねぇって決めたんだ」 「………それなら、二人でいらしたらどう? うんとご馳走するわよ」 張り付くような倫の視線。 なかなか食い下がらない倫に、寛司が苦笑いを浮かべた。 「……アイツはどうした?」 寛司が店内をキョロキョロと見回す。 あからさまにはぐらかしたんだろう。倫が、肩で浅い溜め息をついた。 「……アッチよ。案内するわ」 カウンターから出てきた倫は、初めて僕に目をやる。 初めて会った時とは、まるで違う雰囲気。何処か見下した感じの視線が、肌に纏わり付いた。 「さくらちゃんは、此方でちょっと待っててね」 バーチェアーを引き、そこに座るよう促される。 寛司を見上げれば、微笑んだ彼に頭をぽんぽんとされた。

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