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第233話
目の前に差し出された、オレンジジュース。
お店の雰囲気のせいか、グラスのせいか、オレンジ系のカクテルに見えなくもない。
刺さったストローをくるりと回せば、カラン…と涼やかな音がした。
「……ねぇ、さくらちゃん」
カウンターに手を付いた倫が、僕に声を掛ける。
「寛司のアトピーだけど。……この一週間の間に、何かあった?」
「……」
「……ケア、してあげてるのよね?」
ケアって……つまりは、そういう事……ですよね。
視線を持ち上げ、倫を見る。
「不満かもしれないけど。寛司はここに通うようになってから……随分と良くなってきていたのよ。
彼を思うなら、ここに来る事を許可してあげて……」
「……」
そう言われてしまえば、返す言葉もない。寛司の事を思うなら、倫の食事は有効で……アトピー治療には欠かせない、大事なものだって思うから。
……だけど。純粋にそれだけじゃない気がする。
やっぱり二人は、つい最近までそういう関係だったんじゃないかって……疑ってしまう。
僕の無反応な態度に、倫が薄く溜め息をつく。
「………そんなに、私の事が心配……?」
「……」
「そうよね。……でも、今はそういう私情を挟んでる場合じゃないわ」
倫がコースターに、サラサラとボールペンを走らせる。
「何かあったら、貴方から連絡して」
「……」
スッと差し出された、それ。
少し強めの口調に押され受け取って見れば、11桁の数字と、その右下に倫という文字。
「……何の話してんの?」
左隣に、音も無く誰かがスッと現れる。
片肘をカウンターに付き、下から覗き込まれて初めて気付き、視線をコースターからその相手に移した。
ふわふわとした髪。
人懐っこい柔和な笑顔。
──どうして、ここに………吉岡が……
「内緒よ。……ね、さくらちゃん」
「……」
微笑んだ倫が、立てた人差し指を自身の唇に当てる。
「……ところで。もう彼との話は済んだの?」
「うん。……だって俺、早く倫さんの飯が食いたいからさ」
「……ハイハイ。いつものでいいのかしら?」
「うん。お願いねー」
奥に引っ込んでいく倫に、吉岡が笑顔でひらひらと手を振る。
「……さて、と」
僕と吉岡以外、誰も居なくなったフロア。
僕の方を見た吉岡が、表情はそのままに、それまでの雰囲気をガラリと変えた。
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