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第235話

カウンターに置かれた、目の前のオレンジジュース。 横から伸ばされた吉岡の手が、グラスごと僕から奪い取る。 汗を掻いたそれが僅かに傾けられ、足元からポタポタと落ちる水滴。 僕から吉岡に向かって、テーブルの上が点々と濡れる。まるで帰り道を見失わないように付けられた、目印みたいに。 グラスを持ち上げたまま、吉岡がストローに口を付ける。カラカラン…と氷のぶつかる、爽やかな音。 「……二人は、知り合い?」 戻ってきた倫が、オレンジジュースを飲む吉岡の前に料理を出す。 湯気の立つ、生クリームたっぷりのカルボナーラ。 「うん、そう。僕は以前、ハイジのチームにいたんだよ。……あー、ハイジって、解るよね」 「……ええ。高次くん、でしょ?」 「そうそう。で、姫は、その″高次くん″のオンナ」 フォークにパスタを巻き付け口に頬張れば、僕へと向けられる吉岡の黒目。 その瞬間。前方から感じる、鋭利で冷たい視線。ピンと張りつめた空気。 「………そう。高次くんの……」 倫は、何も知らなかったんだろう。 憂いを帯びていたその瞳に、それとは相反する感情が現れ、みるみる支配していく。 一瞬目を大きく開け、何か言いたげな唇を引き結び、その瞳をスッと横に逸らす。 ……わざとだ。 多分、わざと言ったんだ。 こんな雰囲気になる事を想定して。僕の居心地を悪くする為に。 「そう言えば倫さん。 さっきあの部屋にいた、全身白ずくめの女性達。……あれ、何者?」 その空気のまま、吉岡が涼しい顔で倫に話し掛ける。 「………あの人の取り巻き」 「へぇ。なんか……こう言ったら悪いけど、気持ち悪い。精巧に造られたアンドロイドみたいで」 「……ふふ。悪趣味よね」 口端を少しだけ持ち上げ、倫が同意する。 「ていうか。これ最高に美味い。……やっぱ倫さんの料理、僕好きだなー。 こんな料理を毎日食べられる深沢さんが、羨ましいよ」 スプーンとフォークで器用にパスタを巻き、次々と口の中に入れる。 その食べっぷりを穏やかに眺めていた倫が、薄い唇を小さく動かす。 「……彼はもう、私の料理なんて食べないわよ……」 その瞳が潤み、小さく揺れた後 隠すように伏せられた。

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