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第236話

「……彼は元々、ヘテロセクシャルよ。 少年院は、男だらけの特殊な世界。その中で私だけが、彼の中で女性的に見えただけ。だから選んだに過ぎないわ。 出所してからの彼は、……ずっとあんな調子だもの」 しっとりと色気のある大人の声で、静かにそう言い切る。 しかし、何処か憂いを帯びて見えるのは、その寂しさのせいかもしれない…… 「勿体ないなぁー。 倫さんはどんな女性よりも女性的で、素敵なのに。胃袋も掴まれちゃうしさ。 ……僕だったら、絶対放っておかないのに」 「……ふふ。お世辞が上手ね」 倫の目元が、嬉しそうに細められる。 上目遣いをしていた吉岡が、それに合わせるように、人懐っこい笑顔をしてみせる。 こいつのこういう器用に人の懐に入る所は、正直羨ましいと思う。 ……僕には、到底真似できない。 僕は気付かぬうちに、直ぐに相手を怒らせたり、傷付けてばかりいるから。 二人の会話の横で、吉岡に半分程飲まれ帰ってきていたオレンジジュースに口を付ける。 吉岡が使ったストローを人差し指で避け、グラスを傾けて。 「……そういえば。この前言ってた彼とは、その後どうなったの……?」 カウンターに手を付き、瞳を輝かせながらも優しげな笑顔を向ける倫が、身を乗り出す。 「……順調ですよ」 「まぁ。羨ましいわね」 「でしょ?」 柔和な笑顔を浮かべながら、吉岡はまた一口と、パスタを頬張る。 この短時間で、皿にはもうパスタが半分しか残っていない。 「それ。……実は、さっきからチラチラと見えて、気になってたんだけど。 ……もしかして、彼からのプレゼントかしら」 「……あ、これ……? うん、そうだよ。僕の大切なピアス。……見る?」 言いながら吉岡は、カシャン…と音を立てて、スプーンとフォークを皿の端にそれぞれ置く。 ──ピアス……? 何となくつられて、僕も吉岡の方を見る。 右耳に被った、天パのようなふんわりした横髪を吉岡が掻き上げる。 と。そこに現れたのは、耳朶に付けられた……十字架の…… 「──返せ!!」 目に入った瞬間── 思うより先に、吉岡に摑み掛かっていた。

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