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第243話

「……お前……」 もう片方の腕が、僕の身体を支えながら抱き上げる。 重なる胸と胸── 間近で合う、視線と視線。 先程までとは違う……憂いを強く帯びながらも、優しくて穏やかな、いつもの瞳。 「そんなに、俺が好きか……?」 「……」  答える代わりに、目を合わせたままこくんと小さく頷く。 それを見届けた寛司は、少し照れたように口元を緩め、呆れたように大きな溜め息をついた。 「殺されそうになっても、か……?」 「……うん」 今度は小さく声で答える。 瞬きするのも惜しい程、寛司をじっと見つめて。 「………俺も、だ」 溜め息混じりに吐かれた言葉。 頬に触れた手がそっと滑り、先程キツく絞められた首元に優しく触れる。 絡める視線。憂いを帯びた瞳が柔く緩み、口の両端が少しだけ持ち上がる。 「お前になら、殺されてもいい……」  ドクンッ…… 心臓が、大きく跳ね上がる。 胸を突き破ってしまいそうな程、バクバクと暴れ回り、呼吸が上手く整わない。 寛司への愛しさが内側から溢れ、潤んで熱くなった瞼を薄く閉じる。 ……だけど、何となく感じる違和感。 向けられた瞳から光が失われ、何処か虚ろげで、弱々しく揺れている。 そう気付いた瞬間──火照っていた身体から、サッと血の気が引くのが解った。 殺し文句……なんかじゃない…… 言葉通りの、意味だ…… 瞬間──脳裏を過ったのは、ファミレスで真木から渡された、白い薬。 『vaɪpər(ヴァイパー)のリーダーは、菊地さんだ』──真木の口から出た台詞。 何の確証もない、単なる憶測に過ぎないものだと思っていた。 でも…… 『──深沢、お前だ』 『お前もろとも、本気でvaɪpər(チーム)を潰す気だ』 ──パーティー会場のVIPルームで、寛司が深沢に吐いた台詞。 寛司の話によれば、ハルオの元恋人であり凌の弟である女装子の愛沢響平を捕まえ、自白させたのは──真木達のグループ。 ……もしかして真木は、響平を自白させようとして……逆に、何かを吹き込まれた……? それとも。vaɪpərを抜けたい真木が、自ら響平(きょうへい)側に寝返った……とか…… でも、どっちにしろ…… 狙っていたのは、深沢じゃなくて。 ───寛司、だった……? 『……身近にいる奴を、あまり信用しすぎんな』 「──!」 まさか、寛司…… 僕を響平と同じ、首謀者からの刺客だと……疑って…… それで、突き放そうとしたり……僕の首を絞めて…… ……なのに…… そんな、こと……言うなんて…… 「………やだ、」 もう一度しっかりと目を開け、必死に縋りつく。 「死んじゃ、やだ……」

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