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第243話 初恋

××× あれから数日。 寛司のアトピーは、日を追う毎に悪くなり、その分痒みも強くなっていった。 何度か夜中に目を覚ましては、ゴリゴリと凄い音を立てて掻き毟る。その度に僕は、濡れタオルで身体を拭き、痒み止めの薬を塗り、新しい包帯に取り替えた。 ……なんで……こんな事に…… 苦しむ寛司を見る度に、胸が張り裂けそうになる。 手が何本あっても足りないと言わんばかりにのたうち回り、獣の様に呻きながら無心で掻き毟る姿は、見るに堪えなかった。 手が届きにくい背中に手を伸ばし、寛司の代わりに何度も擦る。 「……さくら」 ひとしきり掻き毟り、全身が血汁でドロドロになった頃、寛司の掻く手がピタッと止まった。痒みの次に襲うのは、寒気と痛み……らしい。 僕の手を引っ張り、まるで抱き枕のように、僕を胸中にスッポリと収める。 「暫く、こうさせてくれ」 触れ合う、肌と肌。重なる心音と心音。 久し振りの温もりに、虚ろになっていた僕の心が満たされていく。 悪化の速度が速まった時から、寛司は僕を避けるようになっていた。日課となっていたハグもキスも極端に減り、看病以外で僕が近付こうものなら、寛司は直ぐに距離を取った。 それは、火傷したようにずる剥けた患部に触れられる刺激が嫌なのかもしれないし、単に浸出液が僕に付くのを気にしてなのかもしれない。 ……もし後者だけなら、僕は全然構わないのに。 湿潤した湿疹からする、酷く生臭い臭い。僕の皮膚に纏わり付く、粘着性のある生温かな液。……だけど、これも全て寛司なんだって思えば、全然嫌じゃない。 病院には、全然行っていないみたいだ。 痒み止めの塗り薬は市販のものだし、包帯もガーゼも、全て五十嵐が用意したものを使っている。 ……このまま、悪くなる一方だったらどうしよう──そんな不安ばかりが、僕の心を巣くっていった。 「……お前、飯、ちゃんと食ってるのか……?」 「……」 「食わねぇと、倒れちまうぞ」 寛司が、僕をあやすように頭を撫でる。 そっと優しく。 ……まるで壊れ物にでも触れるかのように…… ……なんでこんな時にまで……僕の心配なんか…… 辛いのは、寛司の方なのに……どうして…… ギュッと胸が締め付けられる。 寛司に気遣われ、優しくされる事が……今は苦しい。

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