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第246話

……何で急に…… どういうつもりで……そんな事…… 心臓に、言葉の破片が突き刺さる。 倫から発せられたそれは、氷のように冷たく、容赦がなかった。 「……」 ……でも……それでも寛司は…… 僕を、″最後のオンナ″だって言ってくれた。 一緒に死んでくれる、とまで── 「コンクリート事件。……知ってるわよね。 そのキッカケとなったのが、その彼女だって話はご存知かしら」 「………はい」 感覚が無くなる指先。ギュッと手を握って誤魔化す。 「寛司はね、彼女を嵌めた女を捕まえて、深沢を含めた仲間にレイプするよう指示して直ぐ、彼女に会いに行ったの。 傷心の彼女を慰めて、ラブホテルで身体を重ねて、愛を確かめ合ったのよ。 ……でもね。寛司がコンクリート事件の主犯として捕まった後、彼女の膨らんだお腹に気付いたご両親が、寛司を訴えたの。 可愛い娘がレイプされたって、酷く騒ぎ立ててね」 「……」 口角を上げ、小さな吐息を漏らした後、倫が静かに視線を落とす。 「そんな渦中に、彼女は──自ら命を断った。 ……産まれた子を残してね」 ……え…… 一瞬、頭の中が真っ白になる。 停止した思考の中で、黒くて大きな影が僕を足元から襲う。 彼女の事を思えば、いたたまれなかった。 妊娠してると知った彼女は、不安……だっただろう。レイプ犯の子か、寛司の子か。それでもきっと寛司の子と信じて、育てて…… ……母が、僕を身籠もった時と……似ている気がする。 その時支えてくれる筈の両親が、娘である彼女をレイプ被害者だと騒いで公表すれば…… 同情、軽蔑、好奇……世間からの目に、常に苦しんでいたかもしれない。 寛司は、そうならないよう……自分を犠牲にしてまで守ろうとしたのに…… 「恐らく……貴方に興味を持ったのは、高次くんのオンナだったから……じゃないかしら」 「……」 ──違う。 僕は、若葉の身代わりで来たんだ。 もしそれが本当なら、悪趣味としか思えない。……いくら何でも、寛司はそんな事しない。 揶揄うような笑みを浮かべる倫を、下から睨み上げた。 「………御免なさい。憶測で物事を言うのは良くないわね。 ……でも、貴方もそうじゃない? なりふり構わず、元彼のピアスを取り返そうとしたんだもの」 倫が、痛い所をつく。 その事について、どんな言葉を並べ立てたとしても、きっと言い訳にしか聞こえない。 もう、話すだけ無駄だ。 「……言いたい事は、それだけですか?」 表情を崩さず、睨みつけたまま言い返す。 ″そういう私情を挟んでる場合じゃないわ″……そう告げられた言葉を、そっくりそのままお返ししてやりたい気分だった。 僕の言葉に、倫の眉山がピクリと動く。 「……まだ、あるわ」 カウンターに付いた手を上げ、倫が腕組みをした。

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