249 / 558
第246話
……何で急に……
どういうつもりで……そんな事……
心臓に、言葉の破片が突き刺さる。
倫から発せられたそれは、氷のように冷たく、容赦がなかった。
「……」
……でも……それでも寛司は……
僕を、″最後のオンナ″だって言ってくれた。
一緒に死んでくれる、とまで──
「コンクリート事件。……知ってるわよね。
そのキッカケとなったのが、その彼女だって話はご存知かしら」
「………はい」
感覚が無くなる指先。ギュッと手を握って誤魔化す。
「寛司はね、彼女を嵌めた女を捕まえて、深沢を含めた仲間にレイプするよう指示して直ぐ、彼女に会いに行ったの。
傷心の彼女を慰めて、ラブホテルで身体を重ねて、愛を確かめ合ったのよ。
……でもね。寛司がコンクリート事件の主犯として捕まった後、彼女の膨らんだお腹に気付いたご両親が、寛司を訴えたの。
可愛い娘がレイプされたって、酷く騒ぎ立ててね」
「……」
口角を上げ、小さな吐息を漏らした後、倫が静かに視線を落とす。
「そんな渦中に、彼女は──自ら命を断った。
……産まれた子を残してね」
……え……
一瞬、頭の中が真っ白になる。
停止した思考の中で、黒くて大きな影が僕を足元から襲う。
彼女の事を思えば、いたたまれなかった。
妊娠してると知った彼女は、不安……だっただろう。レイプ犯の子か、寛司の子か。それでもきっと寛司の子と信じて、育てて……
……母が、僕を身籠もった時と……似ている気がする。
その時支えてくれる筈の両親が、娘である彼女をレイプ被害者だと騒いで公表すれば……
同情、軽蔑、好奇……世間からの目に、常に苦しんでいたかもしれない。
寛司は、そうならないよう……自分を犠牲にしてまで守ろうとしたのに……
「恐らく……貴方に興味を持ったのは、高次くんのオンナだったから……じゃないかしら」
「……」
──違う。
僕は、若葉の身代わりで来たんだ。
もしそれが本当なら、悪趣味としか思えない。……いくら何でも、寛司はそんな事しない。
揶揄うような笑みを浮かべる倫を、下から睨み上げた。
「………御免なさい。憶測で物事を言うのは良くないわね。
……でも、貴方もそうじゃない?
なりふり構わず、元彼のピアスを取り返そうとしたんだもの」
倫が、痛い所をつく。
その事について、どんな言葉を並べ立てたとしても、きっと言い訳にしか聞こえない。
もう、話すだけ無駄だ。
「……言いたい事は、それだけですか?」
表情を崩さず、睨みつけたまま言い返す。
″そういう私情を挟んでる場合じゃないわ″……そう告げられた言葉を、そっくりそのままお返ししてやりたい気分だった。
僕の言葉に、倫の眉山がピクリと動く。
「……まだ、あるわ」
カウンターに付いた手を上げ、倫が腕組みをした。
ともだちにシェアしよう!