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第248話
……何で急に……
どういうつもりで……そんな事……
「……」
心臓に、言葉の破片が突き刺さる。
倫から発せられたそれは、氷のように冷たく、容赦がなかった。
……でも……
それでも寛司は……
僕を、“最後のオンナ”だって言ってくれた。
一緒に死んでくれる、とまで──
「コンクリート事件。……知ってるわよね。
そのキッカケとなったのが、その彼女だって話はご存知かしら」
「……はい」
感覚が無くなっていく指先。ギュッと手を握って誤魔化す。
「寛司はね。彼女を嵌めた女を捕まえて、深沢を含めた仲間にレイプするよう指示して直ぐ、彼女に会いに行ったの。
傷心の彼女を慰めて、ラブホテルで身体を重ねて、愛を確かめ合ったのよ」
「……」
「……でもね。寛司がコンクリート事件の主犯として捕まった後、彼女の膨らんだお腹に気付いたご両親が、寛司を訴えたの。
可愛い娘がレイプされたって、酷く騒ぎ立ててね」
口角を上げ、小さな吐息を漏らした後、倫が静かに視線を落とす。
「そんな渦中に、彼女は──自ら命を断った。
……産まれた子を残して」
……え……
一瞬、頭の中が真っ白になる。
停止した思考の中で、黒くて大きな影が僕を足元から襲う。
「……」
彼女の事を思えば、いたたまれなかった。
お腹に命を宿してると知った彼女は……不安、だったんだろう。
レイプ犯の子か。寛司の子か。それでも、きっと寛司の子だと信じて、産み育てて……
……母が、僕を身籠もった時と……似ている気がする。
その時支えてくれる筈の両親が、娘である彼女をレイプ被害者だと騒いで、世間に公表すれば……
同情、軽蔑、好奇……世間から向けられる様々な目に、常に苦しんでいたかもしれない。
だから寛司は、そうならないよう……自分を犠牲にしてまで守ろうと、していたのに……
「恐らく……貴方に興味を持ったのは、高次くんのオンナだったから……じゃないかしら」
「……」
──違う。
僕は、若葉の身代わりで来たんだ。
もしそれが本当なら、悪趣味としか思えない。……いくら何でも、寛司はそんな事しない。
揶揄うような笑みを浮かべる倫を、下から睨み上げる。
「………御免なさい。憶測で物事を言うのは良くないわね。
……でも、貴方もそうじゃない?
なりふり構わず、元彼のピアスを取り返そうとしたんだもの」
倫が、痛い所をつく。
その事について、どんな言葉を並べ立てたとしても、きっと言い訳にしか聞こえない。
もう、話すだけ無駄だ。
「……言いたい事は、それだけですか?」
表情を崩さず、睨みつけたまま言い返す。
『そういう私情を挟んでる場合じゃないわ』──そう告げられた言葉を、そっくりそのまま返してやりたい気分だ。
僕の言葉に、倫の眉山がピクリと動く。
「……まだ、あるわ」
カウンターに付いた手を上げ、倫が腕組みをする。
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