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第247話

「……寛司の事、愛してる……?」 眉をひそめ、仁王立ちとも似た態度とは裏腹に、発せられたのは、今にも泣き出しそうなか細い声だった。 思ってもみない台詞に、驚く。 ……もっと、嫌味な事を言われると思っていた。 「うん……」 僕は、親から愛されずに育ってきたから……これが『愛してる』という感覚なのか、本当の所はよく解らない。 でも、寛司が痒みで苦んでる姿を見ると、その辛さの半分でも僕が背負いたいと思う。 求められたら嬉しいし、寛司が喜ぶ事なら、何だってしたい。……ずっと、一緒にいたい。離れたくない。 もし誰かが寛司の命を狙うのなら、僕はその盾になりたい。 真剣な目を、真っ直ぐ倫に向ける。 その視線から逃れるように、倫が黒目だけを横に逸らした。 「もし……貴方の元彼が、寄りを戻そうと言い寄って来たとしても……?」 「……」 「………野暮な質問ね」 憂いを帯びた表情のまま溜め息混じりにそう呟くと、組んでいた腕を解き、クロスしたまま自身の二の腕を掴む。 「深沢から聞いた話よ。 この前貴方達が来た時……VIPルームで吉岡が、二人に動画を見せたらしいの。 ──貴方が元彼と致してる、音声をね」 「……え」 それって── 前にハイジが言ってた……竜一とセックスしてる、音声動画……だよね。 あの時も確か、バーカウンターで待つ僕の前に現れたのは──吉岡だった。 「でも寛司は、こう言ったみたい。──俺は、過去の男にまで嫉妬するタマじゃねぇ。 その一言で、貴方が愛沢と共謀していると疑いを掛けた深沢を、一蹴したそうよ。 ……それを聞いて、思い知らされたわ。 一時の感情なんかじゃない。寛司は、貴方に本気なんだって……」 「……」 僕が現れるまで、倫は寛司の隣に一番近い存在だったんだろう。 倫と寛司と深沢──この三人の深い所での関係性は、僕には解らない。 目の前で僕を口説く寛司を見ても、倫がそこまで動じなかったのは……最後には必ず自分の元に戻ってくると信じていたから、なのかも…… 「今日は、連絡くださってありがとう。……嬉しかったわ」 倫が、二の腕を掴んだまま顔を横に向け、僕から顔を隠す。 「………寛司の事、よろしくね」 吐かれたのは、最初に会った時と同じ台詞──だけど、あの時とは全く違った響きを持ち、僕の心に届く。 倫の肩が、僅かに震えていた。

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