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第249話
『お前、2-6-2の法則って知ってるか?』
『……ううん』
『働きアリの法則ともいうんだが……』
寛司が、備え付けのメモ用紙を手元に引っ張り、ボールペンを走らせる。
『働きアリのうち、よく働くのが二割。普通なのが六割。サボってるのが二割いる。
その中のよく働く二割のアリを間引くと、残りの八割の中からよく働くアリが二割出てくる。反対に、よく働くアリのみを集めると、そこからそこそこサボる奴と怠ける奴が現れ、結局2:6:2になるんだ』
『2 6 2』と書かれた数字。
説明しながら、最初の2と6の間に/を入れ、後ろの6と2を○で囲うとそこから矢印を引き、『2 6 2』と書き記す。
同じように最初の2を○で囲み、矢印を引いた先に『2 6 2』と書き、下線を雑に二本引いた。
『これを踏まえて聞く。
この世に、犯罪が無くならないのは何故だ』
『………2-6-2の法則が、働いてる……から……?』
『そうだ。
幾ら犯罪者を捕まえてムショにぶち込んだ所で、それに取って代わる奴が犯罪者となる』
『……』
『俺が犯罪者を引き受けたままでいれば、犯罪者にならずに済む奴がいるって話だ』
『………そんなの、やだ』
顔を上げて寛司を見れば、可笑しそうに寛司が笑った。
『はは。まぁこれは、俺の勝手な持論だ。綺麗事にすぎねぇ』
『……』
『……深沢達が何と言おうが、俺が原因で凶悪事件は起こった。人が一人、恐怖と苦痛に堪えながら……死んでいったんだ。
その事実は、どう足掻いても変えようがねぇ。過ぎ去ったとしても、その罪の重さは消えねぇよ。……一生な』
その瞳が哀愁を含み、何処か遠くを眺める。
ここでは無い何処かをじっと見据え、瞬きひとつしない。
それでいて、僕の事はよく見ている。よく解っている。
心の奥底で、今何を考えたか。
『……でも、お前は変わるな。
高次が犯した罪を、お前まで責任感じる事はねぇ。
汚れんな。この世界 に染まるなよ、さくら。
……そのままの、純粋なお前でいてくれ』
僕を引き寄せて、ギュッと抱き締められる。
『犯罪者 にだけはなるな。……若葉になんか、絶対なるんじゃねぇぞ』
「……」
若葉は今も、昏睡状態らしい。
このまま目が覚めなければ、2-6-2の法則で僕が若葉の役目を担うと、寛司は本気で思ったのだろうか。
……指先の痺れ。
若葉が乗り移ったような感覚。
まさかあれは──本当に……
手のひらを広げてじっと見る。
いつからか、そういう感覚は出なくなっていた。
「……」
僕を若葉に仕立てる……なんて。最初の頃言ってた癖に。
寛司と初めて会った時の事を思い出し、僕は心の中で密かに微笑んだ。
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