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第250話

ふと、目が覚めた。 目が覚めてから、夢で良かったとホッと胸を撫で下ろす。 黄昏色に染まった──学校の保健室。 ベッドに座り、見知らぬ教師……結構ガタイのいい男性に、足の爪先から(くるぶし)辺りまでを舐められていた。 それを僕は、冷ややかに見下ろす。そして、どうやったらこの教師を従順な犬に躾けられるのか、妙に冷静に考えていた。 リアルで、奇妙な夢。 何でこんな夢なんか見たんだろう。 僕はもう、殆ど学校になんて行ってないというのに。 起き上がって、周りを見渡す。 まだ頭がボーッとする。 真っ暗な部屋に、窓から射し込まれる月明かりがやけに綺麗で。僕はベットから下りると、窓辺に立った。 『月が、綺麗だな』 それは、寛司との街デートの帰り。 裸で抱き合った車内から、寛司が夜空を見上げてそう呟いた。 生い茂る木々の間から黄金色の月が垣間見え、でもまだ余韻に浸っていたい僕は、ぼーっとしながら『……うん』と空返事をした。 それは何の意味も持たない、他愛ない台詞だったのかもしれない。 ……けど、今こうして思い返してみれば、あれは、僕を抱きながら言った……『愛してる』っていう意味を含んでいたのかも…… そう思ったら、案外ロマンチストなんだなって……寛司が可愛く思える。 愛されてる。 心から、そう思える。 僕は寛司から、ずっと欲しかった……深くて温かい愛情を注がれてる。 いつも傍にいて。 僕だけを、見ていてくれる── 解ってくれている。 今の僕は、幸せだ。 今まで、色んな事があったけど……ここに来て、寛司と出会えて、良かった── 満月が、とても綺麗な夜。 淡く蒼白い光が、優しく僕を照らす。 まだ幼い頃──冬の冷たい路上に放り出された僕は、今と同じ月を見上げていた。 あの時の僕は、ただ嘆いているだけで。 僕が誰かに愛される姿なんて、想像もしなかっただろう。 でも僕には、寛司がいる。 今の僕は、幸せだ。 「……」 ……早く、帰って来ないかな…… こんな綺麗な月を、寛司と一緒に見たい。 電気を付けるには勿体なくて。暫くそのまま、月を眺めていた。 ああ…… 寛司に、逢いたい…… 早く、逢いたい…… 離れている時間が、少しだけ長いってだけなのに。 恋い焦がれる気持ちと、逢えない淋しさがどんどん募り……切なく心が痺れ、僕を感傷的な気分にさせる。 おかしい。 変なの、今日の僕…… そっと唇に、指先を当てる。 今朝、自分から……して…… 寛司の驚いた顔と、あの時の熱を思い出す。 ……帰ってきたら…… また僕から、キス……しても、いいかな……

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