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第251話 **
×××
隣にある筈の温もりが、無かった。
薄く瞼を上げ、シーツの上を滑らせながら、そっと手を伸ばす。
確かめなくたって解る。……寛司が、ここにいないって。
何となく、サイドテーブルの上にある袋に視線を移す。
ぼんやりと映るそれは、昨日と同じ様子で鎮座していて──
……え……
何で、こんな所に……
一瞬で、微睡みから覚める。
大きく開けた瞼は、そのまま閉じる術を忘れてしまった。
玄関とベッド間のスペース──丁度、サイドテーブルの前辺りに、キャンプ等で使用される、オレンジと白のストライプ柄の小さなテントが組み立てられていた。
出入り口はファスナーでキッチリと塞がれている。
「………」
……何で……なんで……
違和感しかない光景。
嫌な予感がする。
寛司が、こんな所にテントを広げるとは思えない。
何より……意味が、解らない……
息を飲み、目をこらしながら身体を起こすと、ベッドから両足を下ろす。
テイクアウトしたお弁当の横に、何やら白いものが置かれていた。……けど、そんなのに構ってられる余裕なんてない。
ゆっくりとテントに近付く度に、皮膚の表面から感じる、凄い熱気。
これは……気のせいなんかじゃない。
部屋全体が、何だか蒸し暑い。
まるで、やかんを乗せたストーブをガンガンに焚いてるみたいに……
久しぶりに額から汗が滲む。でも、拭う余裕すら、ない。
テントの前に両膝を付き、ファスナーに手を掛ける。
ジジジジ……
引っ掛かりながらも、何とか上へ引っ張り上げると、その隙間からもぁっと漏れ出す……強い熱気。臭気。
息苦しいその塊に襲われ、思わずファスナーを摘まむ指を撥ね除け、腕で鼻と口を塞ぐ。
まるでサウナ室のような乾いた熱さと、鼻にツンとつく、酸っぱい臭い。
それに加え、生臭く、肉が腐ったような……何ともいえない異臭が、鼻の奥を酷く刺激し、こびり付いて離れない……
「………」
よく、解らない……
解らないけど……嫌だ……
嫌だ……
後ろに尻餅をついたまま、両足が小刻みに震えて動けない。
痺れたように、感覚を失う四肢。
それでも何とか力を入れ、気持ちを奮い立たせ、着ていた服の裾を引っ張り上げ、口元に当てる。
そしてもう一度、テントに身を乗り出し、まだ開け切っていないファスナーに手を伸ばす。
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