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第254話

××× ──どうして シートに預けた、行く宛ても無い無気力な身体が、山道を走るワゴン車が揺れる度に、同じ方向に揺さぶられる。 車内は以前と変わらない。相変わらずのごみ箱。座った場所もメンバーも、同じ。──運転手は真木で、助手席には五十嵐。その後ろが僕で、距離を詰めて隣に座るのは、愁。 愁の足元には、ジントニックの空き瓶がごろごろと転がっている。 昨日、詐欺が上手くいったお祝いだとばかりに、愁だけが酒盛りをしていた事を思い出した。 車内は以前とは違う異様な臭いが蔓延するものの、クーラーを効かせているせいか、誰も窓を開けようとはしない。 ふと愁と目が合い、冷静なまま黒目だけを動かして、外へと向ける。 「……」 ──どうして。 僕を手放したくない。 死ぬ時は、一緒だって……そう言った癖に…… 手中にあるのは、サイドテーブルに残された、一枚の小さな紙切れ。 『お前を解放する。 どこへでも、好きな所に行け』 やけに丁寧で、綺麗な文字。 ……全然、らしくない。 書かれた言葉も、全然……らしくない── 内側から壊された硝子の精神(こころ)を掻き集め、胸の中に再び押し込める。 だけどその破片は、全て先が尖っていて……僕の心を容赦なく傷付け、ズタズタに切り裂く。 くしゃり、と手の内にある紙を握り締める。 嘘……だよね…… ……だって、『もう少し、頑張れそうだ』って…… 僕にそう、言ってくれたよね…… 溢れそうになる涙をぐっと堪え、移りゆく窓の外の景色をぼんやりと眺める。 「……で。二人はこれからどうすんの?」 「あー、姫の家ってどこ?」 運転する真木が穏やかな声で尋ねれば、愁がすかさず軽い口調で僕に話し掛ける。 人が一人死んだというのに。まるでいつもの日常と変わらない。加えて、浮かれた雰囲気が入り混じった空気。 この人達にとっては、どうって事ないんだろう。 元々、遺体処理班だ。 例え遺体が見知った顔だったとしても、そういう感情の一切を捨て、割り切って仕事をしてきたのかもしれない。 「……」 いや、違う。 ──殺したんだ。 僕に、薬を渡してきたくらいだ。 どうやって殺したのかは解らないけど……僕以外の誰かを使って……或いは自らの手で……寛司を抹殺し、望み通り自由を手に入れたんだ。 何処か浮ついた空気は、そのせいだ。……きっと。

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